ルパン三世
「三時に別れの鐘が鳴る」
脚本/さわき・とおる
イラスト/池本 剛

この作品は、当HP「TYPER'Sルパン三世探索隊」の「歴史的事実資料館」コーナーに掲載されている、
「TV旧ルパン三世第10話「ニセ札つくりを狙え!」の原型である「3時に別れの鐘が鳴る」(脚本:さわき・とおる)全文掲載」に、
池本剛氏が各場面ごとのイメージイラストを描きおろし、ルパン倶楽部さんのBBSにて連載されたものです。

Aパート / Bパート


 


「三時に別れの鐘が鳴る」脚本/さわき・とおる イラスト/池本剛

<登場人物>
ルパン三世
次元大介

峰不二子

シルバー夫人(”ウクライナの銀狐”と呼ばれる老婆)
男爵(シルバー夫人の長男)
ボルボ(シルバー夫人の次男)

イワノフ(ミクロの指と異名をとる時計職人)

クリフ・不私刑(殺し屋・殺人訓練所の所長)

銭形警部(ルパンの変装)
シルバー家の執事

殺し屋たち
 

Aパート
 

@掘建小屋・中

粗末な板戸の前、ひざ頭を抱え込みながら
”時”を待つルパンと次元。

次元 「静かだな」

ルパン 「ウム、静かだ」

次元 「寒かあねえか?」

ルパン 「ウム、寒い」

次元 「来るのかい、本当に?」

ルパン 「ウム、来る、俺の感に狂いはない」


腕時計を見る。
秒針が時を刻む - 数秒。

ルパン 「行くぜッ」

次元 「おおッ」

すっくと立つ。バシッ、ルパンが板戸を蹴る・
サーッと朝の陽光がとび込んでくる。すると、その眼前に開けるのは -









A荒野

草木ひとつない乾ききった大地。

彼方、一点の土煙が -

次元 「来たッ」

ルパン 「ウム」

接近してくる黒塗りのワゴン。
運転席の黒づくめの二人の男。
後部席に積れた黒皮のスーツケース。


前方、躍り出るルパンと次元。

男A 「ムッ」

助手席の男B、マシンガンを構え、撃つ。

ルパンと次元、左右に身を躍らせる。

銃弾が乾いた土をはじく。

一回転して、スックと立ったルパンと次元の手に束ねた数本のダイナマイト。

点火するとワゴンの周囲に投げる。投げる。

炸裂するダイナマイトに。横転するワゴン
ーから、転がり出る黒皮のスーツケース。

ガキッとスーツケースを取る次元。

次元 「へへへヘッ、やったぜ、男爵の吠え面が見てえってもんだぜ」

ルパン、ニヤッと笑い返す。









Bシャキンッ 宙空に弾ね上げられるナイフ
















C不私刑秘密訓練所・裏庭

ドウッ、投げとばされる男。
投げたのは、女 − 峰不二子、乱れた髪を風になびかせ、呼吸を整える。

人の気配にハッと振り向く。

いきなり襲いかかってくる拳 − 二発、三発!
必死にさける不二子。

襲うのは。男 − 不私刑、禿上がった頭には傷、残忍そうな顔。

不二子、不私刑の攻撃を二度、三度とさけ、一瞬のスキを突いて、ヤッと小さいが鋭い気合ー。

不私刑 「ムッ」

両眼を射るように突き出された不二子の人差指と中指。

不私刑 「やるな……」

ニタッと笑う。
不二子、ニッと笑いかえす。

人の気配にキッと振り向く二人。

不私刑 「ほう、遂においでなすったか」

ムソッと立っている初老の紳士。

不私刑 「わが殺し屋訓練所へ……ええ、男爵」

男爵と呼ばれる暗黒街のボス − 無言。













D邸内・一室

壁の時計 − が進む。
ソファにかけ、男爵が待つ。
ドアが開く。

不私刑 「男爵ッ、コンピューターがはじき出したぞ」

男爵 「ウム」

不私刑 「(データを手に)二人はじき出した、一人はクリフ・不私刑」

男爵 「……」

不私刑 「武芸百般……全国一流大学の学位をとり、医者で理化学はもとより、殺人術の第一人者、
現在おまけにここ秘密訓練所の所長、年齢は二十五歳 − どうだ、ルパンにひけはとるまい」

男爵、ニヤリ、頷く。

不私刑 「まだ、ルパンよりすぐれている点を……二つ三つ」

男爵、サッとデーターをひったくって − 

男爵 「オーケー、オーケー、わかったよ」

不私刑 「あまり売り込むなよ、自分を……エ?不私刑」

不私刑、ニタッと笑う。

男爵 「お前が手を貸してくれるとは心強いな、ところでもう一人は、誰だ?」

不私刑 「俺の片腕……峰不二子ッ」

インサート − 
妖艶な表情で振り向く峰不二子。

男爵 「オンナ?!」


不私刑 「ルパンは女に弱い、コンピューターに出ているんだ、ルパン退治はまかせてくれ」

男爵 「ウム」











Eめくるめく真昼の陽光の中を、峰不二子がオートバイを走らせる
白光の中に、不二子の姿がストップ・モーション、その顔の上に − 















Fタイトル
三時に別れの鐘が鳴る。















G山荘

ルパンの隠れ家 − 黄昏。

ガキッ、スーツケースの錠を壊すS&Wの台尻。
スーツケースを開く次元。
びっしり詰込まれている札束。

ルパン、ソファに寝そべっている。
次元、一束の札を手にとり、頬ずり。

次元 「っへへッ、現金ってやつは何時見ても可愛いもんだぜ」

ルパン 「よしな、次元。そいつを使う気はない」

次元 「なに?!」


ルパン 「完璧じゃないんだ、そいつは」

次元 「……」

ルパン 「こんな未完成品じゃ、素人の眼は誤魔化せてもプロの眼は誤魔化せない」

次元 「じゃ、なぜ?」

ルパン 「素人だけを騙そうっていう男爵の根性が気にいらないのさ」

次元 「なるほど……判ったよ、ルパン。本当のプロの仕事ってのを見せてやろうってわけだな」

ルパン 「それには腕のたつ職人が必要だ」

次元 「居るぜ、”ミクロの指”と呼ばれる男が……」

ルパン 「(身を起こし)ミクロの指?」

次元 「(頷き)イワノフって時計職人だ、こいつに原板を作らせりゃ、本物そのままの現金が出来るぜ」

ルパン 「そいつはどこに居るんだ?」

次元 「危険な仕事だ、”ウクライナの銀狐”を敵に廻さなくちゃならない」

ルパン 「ウクライナの銀狐?」

次元 「ウム(頷く)」



Hコワルスキー渓谷への道(真昼)

広大な荒野の道をロールスロイスが走る。

次元の声 「コワルスキー王国の貴族の未亡人で − 」

I車内

後部席に深々と坐る老婆 − ウクライナの銀狐 − シルバー夫人。
その無表情な顔。

次元の声 「シルバって言う時計コレクターの婆さんだ」



Jコワルスキー渓谷

大時計 − そびえる大岩壁にはめ込まれた巨大な時計。
ロールスロイスが来る、停る −



K車内

シルバー夫人、大時計を見上げ、懐中時計を取り出す。
十二時 − ガーン、ガーン、大時計が巨大な音を上げ、時を告げる。
夫人、側の無線電話を取る。



Lシルバー邸・内

電話が鳴る。
受話器を取る執事。



Mコワルスキー渓谷

夫人 「十二時十秒、十一秒、十二秒……」



Nシルバー邸・書斎

執事 「(大声で)十三秒、十四秒……」

キャメラ、引く − 室内いっぱいに種々の時計が置かれている。
その時計が様々の音をたてて時を刻む。
執事「(時計を眼で追いながら)はい、確かに狂いはございません、奥さま」

Oコワルスキー渓谷
夫人 「勿論です、私の命に狂いがあってはなりません、短かすぎても、長すぎても − 」
ガチャッ、受話器を置き、運転手に合図。
ロールスロイス、岩壁の下にある入口へ向う − 。



P時計岩壁・内部

のぞき穴から見張っていた青年ボルボ、呟く − 。

ボルボ 「お母さまがおいでだ −」

後方、回転しつづける無数の歯車。
その前、一人の老人が作業の手を止める − 時計職人イワノフ。

ドアが開く。
入ってくるシルバー夫人。

夫人 「御機嫌いかがです、イワノフ」

イワノフ 「ハイ、快調です、奥さま。この大時計のように規則正しい生活が私の健康を快活にしております」

夫人 「それは結構 − ねえ、イワノフ、私とお前が全世界の時間、
人間たちの運命を握っているのですよ、なんと素晴らしいことではありませんか」

イワノフ 「ハイ、奥さま」

不気味な音をたてながら回転しつづける歯車。

ルパンの声 「なにッ、高性能爆弾……」



Qもとの山荘

次元 「ウム、その大時計のどこかに起爆スイッチが備えつけられているという噂だ、
その高性能爆弾は一発で全世界をふっとばす程の威力を持っているらしい。
今迄、各国の諜報員が事実を確かめようと接近したが、全て失敗に終わっている。
やらねえか、ルパン、その秘密を探り出しちゃみねえか………」

ルパン 「お断りだな」

次元 「?」

ルパン 「今、俺たちに必要なのはイワノフだ、先の事などかまっちゃいられねえ」

次元 「しかしなァ、ルパン」

ルパン 「シッ」

突然、ルパンの手の中からナイフが飛ぶ。

次元 「ムッ」

窓のカーテンの人影が一瞬、消える。

ルパン 「誰か居るッ」

次元 「ウム」

S&Wを手に窓辺へ寄り、外をうかがう。

次元 「アッ」

ルパン 「どうした?」
外を凝視 −?!となる。



R同・外
無人のオートバイがまっしぐらに突進してくる。



S同・中
次元 「ふせろッ ルパン」

二人、左右に身を躍らせて、身をふせる。
窓からとび込んでくるオートバイ、横転し、車輪がカラカラと空転する。
ルパンと次元、凝視。
カラカラ転る車輪、急にピタッと止まる。

二人 「ムッ?」

ドカーン、爆発するオートバイ。




21 ドドドーン 木端微塵に砕け散る山荘。












22 走る車の中

腕時計 − ハンドルを握りながら、時間を見る不私刑。

不私刑 「もう終わった頃だぜ、男爵」

男爵 「そう願いたいもんだよ」

不私刑 「これであんたの偽札作りもうまくゆくってもんだ」

男爵 「ウム」










23 廃墟

峰不二子が佇み、見まわす。

突然、瓦礫の中からヌーッと立ち上る真黒な男。

不二子 「アッ」

その後から、これも黒こげの男が − ルパンだ。

ルパンの黒い顔の中で白い歯がギラッと光る。

不私刑の乗用車が止まる。

彼方を凝視した不私刑と男爵が呆然となる。

廃墟の中に焼けぼっ杭を組んだ十字架が立ち、そこに縛られた峰不二子。

不私刑と男爵歩み寄る。

不私刑 「やられたな、峰不二子」

不二子 「気に入ったわ、ルパン三世………」

不私刑 「なに?!」

不二子 「きっとこの借りは返してみせるわ、きっと…………」

男爵 「ルパンはどうした?」

不二子 「コワルスキー王国…………」

男爵 「なに?」

不二子 「どうした、男爵、コワルスキー王国を知ってるのか?」

男爵 「ウム………。(意味ありげに頷く)」

<F・O>



24 シルバー邸・書斎(数日後)

無数の時計 − に、囲まれて書物を読むシルバー夫人。
執事が入ってくる。

執事 「銭形警部さまがお見えです」

不機嫌に頷く夫人。
執事、去る。
入れ違いに入って来る銭形。

銭形 「初めてお目にかかります、銭形です」

夫人 「(冷たい眼を向け)十五秒の遅れです、約束の時間に。気をつけて下さい」
銭形「ハ?ハァ、申しわけない………」

夫人 「で、警部、遠路はるばるこのコワルスキー王国へ何の御用です」

銭形 「奥さん、一大事ですぞ、ルパン三世という大悪党が当地に潜入したのです………」

夫人 「ルパン三世?知りませんね、そんな名前は……おそらくどこかのこそ泥でしょう………」

銭形 「とんでもない大物中の大物、この男にかかったら、この世界で盗み出せない物はないとまでいわれている大物です」

夫人 「オホホ………判りましたよ、気をつけましょう。ところであなたにお礼をしなければ………」

側のスイッチを押す。
壁の数個の時計から、、ヌッと数本の筒先がー 。

銭形 「ムッ?!」

プシッ、プシッ、鉄の矢がとぶ。
銭形、サッと身をさける。
床に突き刺さる鉄の矢。

銭形 「な、なにをなさる、奥さん」

夫人 「ホホホ……変装をおとり、ルパン三世ッ」

銭形 「!!」

夫人 「判っているのですよ、坊や」

銭形 「(突然)ハハハ………ばれたか、さすがは”ウクライナの銀狐”見直したぜ」

ベリッと変装を取るルパン。

夫人 「ホホホ…あなたも大した坊やだこと、私の所へ直接挨拶に来るんだからねえ、ところで何が欲しいんです、あなたは?」

ルパン 「イワノフ(きっぱり云う)」

夫人 「(一瞬、ギクッとするが)どうぞ、でも、それはあなた自身の命を縮めることになるのですよ」

ルパン 「さて、どうかな」

夫人、サッと側のボタンに手を -

ルパン 「おっとと……また会おうぜ、婆さんッ」

ヤッと気合もろとも窓にダイビング。
ニヤッと微笑する夫人。



25 同・外

窓からとび出してきたルパン、着地 − 
が、そのまま地の中へ吸い込まれる。
ルパン 「アーッ」



26 書斎

夫人 「ホホホ………だから云ったのよ、坊や、私に逆らうと命を縮めることになるって………」










27 落とし穴
ー を落ちていくルパン。
地に叩きつけられて、気絶する。








28 書斎

入って来る執事、その手に紅茶カップが二つ。

執事 「おや、警部さまはお帰りですか?」

夫人 「(無言)」

執事 「残念なことをしました。折角、お茶を入れたのに………」

夫人 「置いていっておくれ、私がいただきましょう」

執事 「はい」

茶をテーブルに置き、去る。
夫人、うまそうに茶をすする。















29 同・廊下

執事、そそくさと来る。
いきなり、横手からS&Wの台尻が、後頭部にふってくる − 呻いて倒れる執事。
ニヤッと笑って物陰から顔を出す次元。



30 田園を走るオースチン、ミニモーク。



31 車内

シートに、ブスッと坐っているルパン。
ハンドルを握る、次元。

次元 「だから云ったろ、シルバ婆さんは強敵だって。いきがって挨拶なんかすることねえんだよ。
婆さんのことは俺の方が良く知ってるんだ、全て俺にまかせときゃいいのさ」

ルパン 「ケッ」

次元 「(得意気に微笑して)今頃、婆さん、眼むいて怒ってるころだろうぜ」



32 シルバー邸・落とし穴

執事がうづくまって、気絶している。
鉄格子越しに見つめる夫人。

夫人 「意外と味をやるわね、若いのに………」

ふと、人の気配に振り向く。
男爵 − と、不私刑。

夫人 「お前!!」

男爵 「母さん、やられましたな、ルパンの奴に」

夫人 「今頃、なんで帰ってきたんだい?」

男爵 「(微笑して)あの男は元気ですか、イワノフは?」

夫人 「………(眉をしかめる)」

男爵 「会わせて下さい イワノフの技術が必要なんです、ミクロの指が………」

夫人 「やめておくれ、あの男に手を出すのは!」

男爵 「協力して下さい 母さん、ルパンの鼻をあかすためにイワノフが必要なんです」

夫人 「ルパン?ルパンなら私が始末してやるよ、だから……イワノフにだけは手を出さないでおくれ」

男爵 「ルパンを始末する?」

夫人 「そうだよ、もう追手を差し向けてあるのさ」

男爵、不私刑にニヤリと笑いかける。



33 街

林立する巨大なビル。
その一角にそびえ立つ高層ビル<インペリヤ・ホテル>

34 インペリヤ・ホテル、イ一階。

エレベーターのドアが開く。
ルパンと次元、乗り込む。
ドア、閉る。



35 エレベーター・中

ルパンと次元、無表情に乗っている。

ルパン 「(突然、呟く)チックタック、チックタック………」

次元 「どうしたい、ルパン」

ルパン 「チックタック、チックタック……聞こえないか、時計の音が?」

次元 「気のせいさ、何も聞こえね、静かだ」

ルパン 「チックタック、チックタック……時計の音が聞こえる チックタック、チックタック………」

次元 「チックタック、チックタック……聞えてきた、俺にも聞えてきたぜ」

ルパン 「(微笑して)ありがとうよ、次元。だが気のせいさ、何も聞えやしない、静かだ」

階表示板が十三階を示して止る、開くドア。
長い廊下へ歩を進めるルパンと次元の後方でドアが閉る。

途端、ドバンとエレベーターが爆発する。

ギョッと顔を見合わせる二人。 



36 一三一三号室・表

ルパンと次元、来る。
鍵穴に錠を入れようとするルパン。

ルパン 「…………?」

次元 「どうしたい?」

ルパン 「開いてる………」

次元 「そうかい」

ドアを押して入る。

次元 「?!」

ルパン「どうしたい?」

次元 「女だッ」
ルパン 「そうかい………な、なにッ」

凝視 − ソファに女がワイン・グラスを手に坐っていた。
女、振り向き、ニッと笑う。

ルパン 「あんたは………」

女 「峰不二子。久しぶりね、ルパン」

妖艶な不二子の笑顔 − 。
 

<中 C・M

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