ルパン三世
「三時に別れの鐘が鳴る」
脚本/さわき・とおる
イラスト/池本 剛

Bパート

Aパート /Bパート

37 シャワー・ルーム

冷水を激しく浴びるルパン。



38 室内

ソファに不二子と次元、対座。

次元 「女には気をつけろ……俺たちの稼業の規律だ、出ていってくれ」

不二子 「あなたに頼んじゃいないわ、ルパンに頼んでるのよ」

次元 「ルパンも同じ意見だろうぜ」

ルパンが、バスタオルを身体に巻いて出てくる。

ルパン 「決めたぜ、峰不二子、あんたを仲間に入れよう」

不二子 「本当ッ(うれしげに立つ)」

次元 「お、おい、ルパンッ」

ルパン 「ニセ札の権利は、俺と次元とお前、3当分、いいな」

不二子 「素敵ーッ」

と、ルパンの首にとびつく。

次元 「ルパン、本気か?」

ルパン 「本気さ、悪いか?」

次元 「ケッ、冗談じゃねえや」

不二子 「私って使い物になるわよ、きっと」

ルパン 「そう願いたいぜ」



不二子、突然キッと一方を振り向きざま、ガーターから拳銃を抜き、撃つ。

ルパン 「!」

窓のカーテン越しに、殺し屋@の影がのけぞる。

不二子 「ネ…………」

ルパン、ニンマリ頷く。

次元 「ケッ」

ドアを振り向きざま、S&Wが火を噴く。

ルパン 「………!」

ドアが開く − 殺し屋Aがのめるように倒れ込む。

次元 「勝手にしてくれ、俺は降りるぜ」

死体をとび越えて、去る。

不二子 「いいの?」

ルパン 「戻って来るさ」

ルパン、素知らぬ顔。
入口に人の気配 − 

不二子 「戻って来たわ」

ルパン 「違うッ」

シャッ、手の中から白い光が飛ぶ、

不二子 「エッ」

と、見る。
入口に、口をあんぐり開け、拳銃を手に立つボルボ − その胸にナイフ。

不二子 「………!」

ボルボ、ガッとナイフを胸から抜き、投げ返す − 。

不二子 「危ないッ」

スパーンッ、ルパンの身体のタオルが壁にぬいつけられる。
素裸のルパン。

不二子 「……!(顔を赤らめる)」

ボルボ、のめるように去る。
入れ違いに顔をのぞかせる次元。

次元 「何かあったのかい?」

素裸のルパンを見て − 

次元 「あっ、失礼」

と、顔をひっこめる。






39 シルバー邸、書斎。

夫人、男爵、不私刑、ハッとドアを振り向く。
ドアがゆっくり開く − 男の影。

夫人 「ボルボ……」

ボルボ 「お母さん………」

のめって倒れ込む。

男爵 「やられたなルパンに」

夫人、ボルボを抱き起しながら - 

夫人 「お前は……お前は弟が殺されても平気なのかいッ(すすり泣く)」

男爵 「(苦笑して)その答えはすぐ出ますよ、母さん」

不私刑に眼で合図。
不私刑、頷き、出て行く。

男爵 「ボルボ、ボルボ……母さんはいつでもボルボにばかりやさしかった…………」

夫人 「エッ?」

男爵 「私はいつも一人だった、そんな私に父さんは云ったよ、
人間はいつも孤独なのだ、誰も頼ることはできない、利用しあっていくだけだって………」

夫人 「…………」

男爵 「手を組もう、母さん。ルパンを殺そう、母さんは母さんの為に、そして、私は私自身の利益の為にッ」

夫人 「……いいわ。私は守らなければならない、あの大時計を、イワノフを!手を組もう、ルパンを殺そう!」

男爵、ニヤリと頷く。







40 時計岩壁、内部

歯車が不気味に回る。
イワノフが見上げる。

イワノフ 「(呟く)時よ、過ぎ去れ、私の奴隷の時よ、早く早く、もっと早く過ぎ去れッ」



41 大時計

 − が、カーン、カーン時を告げて鳴る。










42 ホテル、一三一三号室、前

次元が廊下にムソッと佇んでいる。

次元 「(呟いている)チックタック、チックタック………早くすませてくれよ、ルパン………」









43 同・室内

ルパンと不二子、対座して、食事をしている。

ルパン 「腹がすいてはいくさは出来ない……ケケケッ」

激しい食欲で、バクバク食う、
その顔が双眼鏡のフレームの中におさまって − 



44 向いのビル・屋上

双眼鏡をのぞく、不私刑。



45 ホテル一三一三号室(双眼鏡のフレーム)

不二子、チラッと不私刑の方を見て、ウインクする。
何も知らぬ気に食いつづけるルパン。



46 同・前

次元 「チックタック、チックタック………」

彼方から、食事用ワゴンを押して、デザートを運んでくるボーイ@。
そして、反対側から、ボーイAも − 。

次元 「ムッ」

いきなり、S&Wを引き抜き、ボーイ@を撃つ。振り向きざまボーイAも − 。
ボーイ@A、のめって倒れる。

主を失ったまま進んでくるワゴン車。
次元の恐怖の顔 − 。
二台のワゴン車、激突ッ − 激しく爆発。

ルパン 「おい、次元、すんだぜ」

ルパンが顔を出し、?と見回す。

ルパン 「どこだ、次元」

次元の声 「ここだ………」

上からの声 − ルパン、見上げる。
天井の電気にぶら下がっているボロボロの次元 − 。

ルパン 「行こうか?」

次元 「よし来た(頷き、ひらりと飛び降りる)」

キャーッ、不二子の悲鳴。
二人、キッと振り向く。










47 同・室内

バシッ、不二子の後頭部が拳銃の台尻でなぐられる。
ぶったおれる不二子。

とび込んで来るルパンと次元。

二人 「アッ」

倒れた不二子の傍に、不私刑。

ルパン 「お前はッ」

不私刑 「クリフ、不私刑、挨拶に来たぜッ」

ルパン 「ケッ」

拳銃を抜きざま、撃つ。

不私刑 「あばよッ!」

サッと身を躍らせて窓から逃げ去る。

ルパン 「不二子ッ」

と、抱き起す。

不二子 「(呻く)殺される、あいつに殺される、裏切り者は殺される………」

ルパン 「しっかりしろ、俺たちがついている、俺たちが守ってやる」

次元 「おい、行くんじゃねえのか、イワノフを連れ出しに?」

ルパン 「行くさ、勿論」

次元 「この女、動けそうにないぜ、置いて行くのか?」

ルパン 「アア(頷く)」

次元 「一人にして大丈夫か」

ルパン 「守ってやるさ」

次元 「………?」

ルパン 「(スックと立って)頼んだぜ、次元ッ」

次元 「エッ」

ルパン、とび出して行く。

次元 「ク、クソッ(ガックリ、坐り込む)」

倒れている不二子、ニヤッと意味ありげに笑う。





















48 シルバー邸・書斎

卓上の電話が鳴る − 男爵が取る。

男爵 「おお不私刑か……ウムウム、よし、判った」

受話器を置く。

男爵 「(夫人に)作戦は成功ッ、ルパンは一人で渓谷へ向ったッ」

夫人、厳しい表情で頷き、側のボタンを押す − 。



49 渓谷への道A

炸裂する地雷火 − の中をルパンがオースチン・ミニモークを走らせる。



50 同、B

ロールスロイスが走る。
車内に、夫人と男爵。



51 同、A

地雷、爆発、爆発!爆発!!
ルパンが噛みつくような顔でハンドルを操作して行く − その姿が、硝煙の中に見えなくなる。



52 時計岩壁、内部

電話が鳴る − 男爵が取る。

男爵 「ウムウム」

見守る夫人とイワノフ。













53 地雷原

粉々に砕かれているオースチン・ミニモーク。
その傍、ジープを停めて、無線電話をかけている不私刑。












54 時計岩壁、内部

男爵 「ウム、よし、判った」

受話器を置く。

男爵 「終わりましたよ、母さん、ルパンは地雷原の露を消えた」

夫人 「(懐中時計を見て)三時に十五秒前……サア、三時の鐘が鳴るわ、ルパンへの別れの鐘が………」

男爵 「そして、母さんとの別れの鐘」

夫人 「えっ!」

男爵 「(ニヤリ笑って)私は云ったはずですよ、母さん。お互いに利用しあうだけだって……仕事がすめば……」

夫人 「殺すッ」

男爵、深く頷き、サッと拳銃を抜こうとする。

一瞬、早く、夫人が側のボタンを押す。
ひとつの歯車がうなりを生じて飛び出す。

男爵 「アッ」

男爵の胸を打つ歯車。

男爵 「お、と、う、さ、ん」

呻くとドウッと倒れる。

夫人 「!」

恐怖のまなざしを送る、イワノフ。
カーン!鐘の音。























55 大時計

カーン、カーン、時を告げる。
その上方 − 岩壁の頂に一人の男が立つ − ルパン!!

















56 同、内部

夫人とイワノフ。

夫人 「お、と、う、さ、ん、……この子は主人を愛していた。
シルバー公爵を……私があれほど憎んだ男を。私の青春を、愛を奪い去った男を……。
イワノフ、私が愛したのは、お前……お前への愛に生きようとした私を、強引に引き離した憎い男……
でも、もう全ては終わった、この大時計の中に私とお前の愛を封じ込めて、共に生き、共に死ぬ。
時よ来い、死の時よ、全宇宙の死よ。さア、イワノフ、止めておくれ、時間を……
高性能爆弾の起爆装置を作動しておくれ」

夫人、イワノフの肩にやさしく手を置く。
イワノフ、ビクッと恐怖の目を向ける。

夫人 「さあ、早くッ」

その時、後方にスックと立つ人影。

夫人 「誰?!」

振り向く − 

夫人 「ルパンッ」

ニッと笑って立っているルパン。

ルパン 「聞いたよ、シルバー夫人、あんたもかわいそうな人だな、一人ぼっちになっちまって………」









夫人、サッと側のボタンを押す。
うなりを生じて、飛び出す歯車。
ルパン、横にとんでさけると、サッとナイフを投げる。

夫人 「ウッ」

胸につきたつナイフ。
ルパン、躍りかかり、当身をくわせる。
呻いて倒れる夫人。

イワノフ 「………(凝視)」

ルパン 「イワノフ、教えて貰おうか、世界をふっ飛ばす高性能爆弾の起爆スイッチって奴を」

イワノフ、首を横に振る。

ルパン 「?」

イワノフ 「そんなものはない………」

ルパン 「エ?」

イワノフ 「奥さまは狂っていた、狂人なのだ」

ルパン 「……(倒れている夫人を凝視)」

イワノフ 「ルパンさん、私を連れていって下さい、
六十年間、この人たちに奴隷の生活を強いられつづけた私に初めて自由の時が訪れる……今、私は自由だ」

ルパン 「お断りだ、俺は行くぜッ」

ルパン、踵を返す。

イワノフ 「ルパンさんッ」

追って立つ。

















57 同、表

止っているロールスロイスの傍に佇んでいた運転手がハッと拳銃を抜く。
シャッ、その胸にナイフ − 運転手、倒れる。
ルパン、車に乗り込む。

イワノフ 「ル、ルパンさん、私を………」

と、追いすがる。

ルパン 「イワノフ、俺はもうお前さんに用はないのさ、
男爵は死んだんだ、偽札を作る必要はなくなったよ、あんたはあの婆さんと幸せになりな」
イワノフ「い、いやだッ、私は自由になりたい」

ルパン 「ケッ、離してくれッ」

ドアにすがりつくイワノフを突きはなそうとする − その後頭部に拳銃が!

ルパン 「ムッ!」

後部シートから身を起す女 − 峰不二子。

ルパン 「お、お前は………」

不二子 「ルパン、イワノフを乗せてやったら」

ルパン 「次元はどうした?」

不二子 「今頃は揺り籠でおねんねしてるわ」

ルパン 「…………!」







58 ホテル、一三一三号室、内

ぐるぐる巻きに縛られて天井からつるされて気絶している次元。
















59 車の中
ルパン 「お、お前って奴は………」

不二子 「(ニヤッと笑い)ルパン、あんたと勝負をつけるって不私刑が待ってるわ、私が案内役よ」

ルパン 「(呟く)不私刑………」

不二子 「さア、イワノフ、乗って頂戴、出発よ」

うれしそうに頷くイワノフ。











60 時計岩壁、内部
夫人がうっすらと目を開き、呻く。

夫人 「イワノフ、イワノフ……私を捨てないでおくれ、私を………」














61 走るロールスロイスの中

ルパン 「あんたは愛しちゃいなかったのかい、あの婆さんを………」

イワノフ 「愛?私にはそんな余裕はなかった、貧しい時計職人にとって愛など考える暇はなかった……」

ルパン 「………(思案)」
不二子、無表情で乗っている。













62 時計岩壁、内部

夫人 「イワノフ……さようなら………」

一隅ににじり寄り、ひとつのスイッチを押す。

夫人 「世界よ、終れッ」



63 ドドドーッ、大音響と共に爆発する大岩壁。















64 走るロールスロイスの中

ルパン、ハッとブレーキをふむ。

ルパン 「(振り返り)見ろ、大時計がくづれるぞ」









見つめるイワノフ、突然 − 。

「ウワーッ」

と、泣きくづれる。

ルパン 「お前、やはりあの婆さんを……(凝視)」

泣きつづけるイワノフ。

不二子 「ルパン、下りて頂戴」

ルパン 「………?」

不二子、一方を指す − 

ルパン 「………!」






原野の中に決然と立っている不私刑。

不私刑 「(叫ぶ)ルパーン、勝負の時が来たようだぜッ」

ルパン 「………」

不二子 「さア、早く下りてッ」

ルパン 「判ったよ、下りますよ」


不私刑 「勝った方が、イワノフの技術を、ミクロの指を手にする、判ったな」

キッと身構える。

ルパン、平然と立つ。
対峙 − 静寂。
後方でエンジン音 − 。

不私刑 「ムッ?!」

ルパン 「…………」

不二子 「ルパン、不私刑、イワノフは私が貰って行くわ」

不私刑 「なにッ」

不二子、高らかに笑い、車をスタートさせる。

不私刑 「くそッ、裏切り者めッ」

拳銃を撃ちながら、車を追う。

ルパン 「………(呆然)」

不私刑、つまづいてひっくり返る。
遠ざかる車 − 









65 車の中

ハンドルを握る不二子。
傍、うつむいているイワノフ、ふっと顔を上げる。

イワノフ 「(呻くように呟く)奥さま………」

不二子、ギクッと見る。
イワノフ、傍のスイッチをサッと押す。

不二子 「アッ」






66 原野

突然、ドバンッと爆発する車。

ルパン 「ムッ」

不私刑 「!」

車は影も形もなく四散する。

ルパン 「イワノフ…(呟く)」

不私刑 「く、くそーッ」

地を叩いてくやしがる。







黄昏 − 
二台のジープが対峙している − 一台には不私刑、もう一台にはルパン。

不私刑 「行くぜッ!」

ルパン 「オオッ」

二台のジープがスタートする − 土を噛んで走り回るジープ − 接触し、激突し、砕かれるままにジープは戦う。

次元の声 「勝負に何を賭けたんだ?」

ルパンの声 「栄光」

次元の声 「栄光?」

ルパンの声 「プロの栄光さ」

次元の声 「なるほど………」






67 ホテル一三一三号室内

ルパン 「プロはつらいな」

次元 「ウム(頷く)、で、峰不二子は本当に死んだのかい?」

ルパン 「どうかな………」

次元 「くそッ、あのメスブタめッ」

キャメラ引く − 天井からつるされたままの次元と包帯だらけ傷だらけのルパンをとらえる − 
(F・O)







68 ビルの屋上(数日後)

パーッと青空にまかれる札ビラ。

不二子 「ほらほら、お金よ、お金をどうぞ、偽札をどうぞーッ!」

側の袋から札をつかみ出してはヤケ気味にまき散らす − 。










69 同・路上 

ハラハラと散る札。

ルパンと次元が見上げる。


















次元、一枚をサッと取る − ルパンの顔が印刷されている。














ルパン、サッと傘を開げる − 























相合傘のルパンと次元が札の降るビル街を遠ざかる。

(F・O)





 

END
 

この作品は、当HP「TYPER'Sルパン三世探索隊」の「歴史的事実資料館」コーナーに掲載されている、
「TV旧ルパン三世第10話「ニセ札つくりを狙え!」の原型である「3時に別れの鐘が鳴る」(脚本:さわき・とおる)全文掲載」に、
池本剛氏が各場面ごとのイメージイラストを描きおろし、ルパン倶楽部さんのBBSにて連載されたものです。



トップ アイコン
トップへ戻る

inserted by FC2 system