第七弾
TV新ルパン三世 未放送台本より
「ベルリンの壁 大突破」全文掲載

TV新ルパン三世には、台本のみ作成され 没になった作品がいくつか存在します。
その中の1つ「ベルリンの壁 大突破」の台本を探索隊は入手。そのすべてを公開します。

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「ベルリンの壁 大突破」脚本/大原 清秀

登場人物
ルパン三世
次元大介
石川五ェ門
峰不二子
銭形警部

ジンガー
ハイドリッヒ少佐
マダム・ローゼ
逃亡民の男

○或る古ぼけた機密書類
表紙にものものしいドイツ語。
不二子の声「”西ベルリン警察犯罪秘録”?」
ページがめくられる。そこに、若い男の顔写真 ー 人相凶悪、頬に傷。
不二子の声「これが向う傷のジンガーね」
ルパンの声「そ。ベルリン一の大泥棒だった男」

○夜霧のベルリン(過去)
ルパンの声「二十年前の話だがねー」
その男ジンガーが、必死に走っている。
追いすがる警官隊の銃撃。
ルパンの声「ジンガーは西ベルリン博物館から三百万マルク、約三億円の青ダイヤを盗んだ」
ジンガー、肩を射たれて街灯にすがる。
小脇にかかえていた宝石箱から転り出る燦然たる青ダイヤ。ジンガー、それを拾い上げ、発砲しながらなおも逃走。

○広場(夜)(過去)
サイレンに追われ、喘ぎながら走ってくるジンガー。咄嗟にマンホールの中へ転がり込むと、蓋が閉ざす。
そこへ、駈けつけてくる警官隊。
血痕がマンホールへ点々と続いている。
一勢にマンホールを取り囲む警官たち。
ルパンの声「そのマンホールは行き止まりの代物だったそうだ。奴は袋の鼠 ー ところがだ」
ズババッ! ー 突如凄まじい一勢射撃。
戦車を先頭に圧倒的迫力で軍隊が来る。
度肝をぬかれて滑走する警官たち。
ルパンの声「そこに来たのが東ドイツの軍隊でね」
兵士たち、鉄杭を打ち込み、鉄条網を張りはじめる ー 何か急ピッチの工事。
ジンガー、蓋を少し持ち上げて驚く。
ジンガー「わッ、ま、待ってくれ!」
が、マンホールの上にドサッと山のようなコンクリートがミキサー車から雪崩落ち、かき消されるジンガーの悲鳴 −。
ルパンの声「その夜一夜のうちに、東ドイツは東西ベルリンの境いに壁を作ってしまったんだ」

○ベルリンの壁<マウアー>(現在)
不気味に蜿々と続く − 巾1m高さ5m。
五ェ門の声「じゃジンガーは壁の下に生き埋めか!?」

○西ベルリン・丘の上のホテル・一室
窓から壁を見おろしているルパンたち。
ルパン「奴はとっくに骨、オコツ。 可哀相に、時価三億円のダイヤを抱いたままな」
不二子「分った、それを戴こうというのね!」
次元「で、そのマンホールの正確な位置は?」
皿に山盛りのソーセージをパクつきながら、
ルパン「それがどこだか分りません」
次元「なにィ?それじゃ仕事にならんぜ」
ルパン「マーマー、困った時はまず腹ごしらえ。ああ!うまい!やっぱり本場のソーセージ!五ェ門もどう?」
五ェ門「俺は小田原の竹輪の方が好きだ!」
ホテルの女主人(ローゼ)がボーイを従えて現れる。妖艶な大年増である。
ローゼ「もし、お客様」
ルパン「やァ、ホテルのマダム。何の用?」
ローゼ「ホホホ、教えてさしあげましょうか、青ダイヤのある場所を」
ルパン「え!?マダムが!?」
ローゼ「ええ。でもただではちょっと。 ホホ、宿賃を十倍、一万マルク払って下さいます?」
ルパン「O.K。で、青いダイヤはどこ?」
ローゼ「ホラ、あの猫のいるあたりですわ」
塀の上で、黒猫がアクビをしている。
次元「マダム、なぜ知っているんだ!?」
ローゼ「こういう商売をしていると いろんな物を見ますのよ。こないだもどこから嗅ぎつけてきたのかギャングたちが −

梯子をかけて塀に駈け上るギャングたち。
クレーン車の大鉄球がグワーン!と塀のコンクリートを直撃し始める。
猛然と唸る東ベルリン監視塔の銃火。
マシンガンで応射するギャングたち。
が、瞬時にして薙ぎ倒される。

塀の同じ場所に渇いている赤黒い血の痕。
− 黒猫がペロペロと甜めている。
不二子「じゃあれはダイヤを狙った連中の血!?」
ローゼ「ええ。近づけるのは猫くらいのものよ」
ボーイが椅子の背にひっかけてあったルパンの上着からそっと財布をぬきとり、ローゼに眼配せ。さりげなく頷くローゼ。
五ェ門「マダム、俺たちに止せというのか」
ローゼ「いいえ、ただお客様方に塀のシミになられますと宿賃が戴けなくなりますのでね(請求書を出す)ホホ、先に払って戴けます、お約束の一万マルク」
ルパン「厭なこと言うねェ(上着をさぐって)ラ!?………ララ!?金がない!?」
ローゼ「何ですって!?(ガラッと威丈高になって)あんた達、宿賃を踏み倒す気ね!」
ボーイがローゼにマシンガンを投げ渡す。
それを構えてバリバリ!と射つローゼ。
ルパンの手にしていた食いかけのソーセージが銃弾に窓の外へ吹っ飛ぶ。
ルパン「ヒエッ、マシンガン・ママ!?」
ローゼ「いつ東の奴等が攻めてくるか分らないから こういう物も持っているのよ。いちのホテルじゃ宿賃を払わないお客には死んで貰う規則なの。さァ、向うをお向き!」
壁に向ってホールドアップのルパンたち。

○同・表の道
車で走ってくる銭形、急ブレーキを踏む。
道に落ちている何かを拾いあげる。
食いかけのソーセージである。
銭形「ム!?この歯型はまさしくルパン!(キョロキョロして)ルパンの奴、近くに!」

○同・一室
マシンガンの引き金を引こうとするローゼ、!?と窓の外を見る。
− ホテルへ駆け込んでくる銭形の姿。
ローゼ「(呟く)邪魔物が - 」
ルパン、銃口を背にブルブル震え上って、
ルパン「は、払いますよ。三億マルクのダイヤさえ手に入れたら宿賃なんて − アチチ!」
背中から煙が出て振り返るルパン、唖然。
銃口はいつのまにかローゼが持っていたシガレットホールダーに変っている。
ローゼの姿はかき消すように消え、暖炉がパチパチと燃えているばかり。
ローゼの声「明日の朝五時までに宿賃をお払い。でないと命は貰うわよ、ホホホ」
どこからか不気味に反響するローゼの声。

○ サブ・タイトル 「ベルリンの壁 大突破」

○東ベルリン・塀付近の情景(夜)
パトロールする警備隊。
旋回する数基の探照灯の光芒。
次元の声「あの灯りがあっては塀に近寄れんな」

○西ベルリン・教会の屋根(夜)
高々と聳えるゴシック式尖塔に張りついているルパン、次元、五ェ門。
ルパン「(ソーセージを頬ばりながら)ナーニ、任しとき。あそこを見な」
彼方の塀の一部に、巾10cmばかりに細くなった箇所がある − そこに、パッと出現する不二子。なんと、曲線美も鮮やかな女子体操のユニフォーム姿。

○塀の上(夜)
不二子「ハーイ、あたし、コマネチ!」
平均台よろしく塀の上で、リズミカルなメロディに乗って見事に倒立、宙返り。
サッと不二子に集中する探照灯の光芒。
そして、つるべ射ちの銃火。
絶叫、四散する不二子。

○教会・尖塔の上(夜)
ルパン「(悲痛に)不二子、なぜ死んだ!(横を見て) - とはいかないのよね」
そこに、機械を操作している不二子。
不二子「(ふくれっ面で)ホロスコープでも死ぬのはいい気持ちはしないわね」
塀の上では、不二子の像が”10.00”の点数札を東ベルリンに見せてアカンベー。
バリバリッと再び銃火。
ルパン「さァ次元さん、今のうちだぜ」
次元、ロープ銃の引金を引く。
シュッとロープが夜空を走って、先端の鉤が東ベルリンのビルの屋上にガチッと絡まる。
ルパン、ロープのこちらの端を十字架に結びつけて、「さて、作戦開始!」。
ルパンと不二子、次元と五ェ門、ロープに吊るした二つの大カゴに分乗し、ロープを手繰り始める。
塀の上へ音もなく滑ってゆくカゴ二つ。
ルパン、ダイナマイトの束をとりだす。
ルパン「さァ、塀をぶっとばすぜ」
と、闇から手が伸びてカゴの縁を掴む。
不二子「(ギョッと見て)ル、ルパン!」
ローゼが亡霊のようにカゴを覗き込む。
ローゼ「宿賃を。ホホ、期限まであと三時間よ」
ルパン「何だァ?!こんなとこまで催促ウ?!」
途端にシューッとしぼむローゼ。
次元「ゴム人形だ。しつこいな、あのマダム」
ルパン「つきあってられないよ − それッ!」
ダイナマイトにライターで点火して投げ落とすルパン。耳を押さえる四人。
不二子「変よ。音がしないじゃない」
一同、下を見る - 塀の上に乗っかっている赤いソーセージの束。
次元「ルパン、ありゃソーセージじゃないか!」
ルパン「いけねえ、よく似てるもんな」
と改めてダイナマイトに火をつけようとした時、銃声一発!
ロープが銃弾にプツリと断ち切られる。
ワーッ! - 四人墜落。が、次元が辛うじてロープの端を掴み、五ェ門、不二子、ルパンと縦につながってぶらさがる。
不二子、足首を掴むルパンを蹴飛ばす。
不二子「痛いじゃない、手を離してよ!」
ルパン「人殺し!……ワーッ!」
ルパン、落下! - と思いきや、足はなんと地上5センチほどでストンと立つ。
ルパン「ああ、よかったァ!」
声「よくなーい!」
ガッと照らすヘッドライト。
銭形と警官たちが立っている。
ルパン「と、とっつあん?!」
五ェ門「では、いまロープを切ったのは?!」
銭形「ムヒヒ、ルパン、もう逃がさんぞォ!」
ルパン「とっつあん、そのセリフは何遍言った?よく飽きないねェ。ここはベルリン、たまにはドイツ・オペラの調子でやってよ」
銭形「オペラ?!よし(朗々とテナーのポーズで)ルパン♪も逃がさんぞォ♪ - これでどうだ。リャッ?いない?:
ルパンたち、ジープにとびのって、バハハーイ!と走り去ってゆく。
銭形「(オペラ調で)おのれェ♪待てッ♪ − どうも癖になるな、こりゃ」

○街(夜)
突っ走るルパンたちのジープ。
その前方に、数本の遮断機がカタカタと降りて、道をふさぎ始める。
次元「ルパン、あそこはチェックポイントだ」
銭形、追いすがる車から怒鳴る。
銭形「ルパン、東ベルリンに入ったら命はないぞ! 引き返せ!俺に捕まった方がましだ!」
不二子「どうする、ルパン?」
ルパン「(悲壮にひしと不二子の肩を抱き寄せて)行くんだ、愛に国境はない!」
不二子「この際愛は関係ないわ(ガンと肘鉄)」
遮断機をぶち飛ばして突入するジープ。
迎え射つ警備兵の銃火。
次元と五ェ門、へし折れて舞い上った遮断機の棒をそれぞれハッシと受けとめると、車の両側に突き出す。薙ぎ払われて横一直線にひっくりかえる警備兵たち。

○東ベルリンの十字路(夜)
ドカーン! − ジープのボンネットに砲弾が炸裂し、炎上するジープ。
ルパンたち、したたかに投げだされる。
ルパン「せ、戦車だ!」
四方の街角から出現する戦車群。
その一台がルパンたちの前に来て止まる。
ハッチがあいて、姿を現わす白手袋のダンディな将校(ハイドリッヒ)。その腕に黒猫を抱いている。
ハイドリッヒ「(意外に温和な口調で)私は東ベルリン警備隊司令ハイドリッヒ少佐だ。ルパン、頼む、温和しく投降してくれ」
ルパン「あんた、折り目正しいのね?!」
ハイドリッヒ「私は国に忠実な軍人だ。悪党ではない」
五ェ門「ルパン、気をつけろ。国に忠実な軍人は、時に悪党より残酷だぞ」
ハイドリッヒ「(ギラッと)それが軍人の任務だ!」
その手の鞭がビュッと伸びて、不二子の首絡まる。一気にハッチの所までひきあげられる不二子。
不二子「ル、ルパン!助けて!」
ルパン「不二子!……野郎!」
戦車に駆け上ってハイドリッヒの腰に組みつく。が、蹴落とされるルパン。
ハイドリッヒの戦車、走り去る。
ルパン「不二子!……待てエ!」
追おうとするルパンたちの前に、他の戦車の十字砲火が降り注ぐ。
ルパン「わッ、もうアウチ!」
五ェ門「でもないぜ − おい、次元!」
五ェ門、遮断機の棒を次元と二人で抱えて、タッタッタッと突っ走り始める。
棒を地につきたて、棒高飛びよろしく屋根の向うへ跳躍 − 。

○ジャガイモ畑(夜)
見事に着地する次元と五ェ門。

○路上(夜)
ルパン「なるほどネ・よし、俺も!」
もう一本の遮断機を手に猛然と助走。
ルパン「アラヨッ! − ヒラーリ!」
見事に屋根の向うに消えるルパン。
ジャボーン! − 水しぶきが上がる。

○ジャガイモ畑(夜)
ルパン、頭からドブに突っ込んでいる。
次元「果てしなくダメな男だな、お前は」
ルパンを引きずり上げる次元と五ェ門。
ルパン「くそッ、不二子を助けなくちゃ」
声「無駄だ。およしなさい」
十数人も男女の人影が木陰から現れる。
手荷物を抱え、老人や子供もいる。
男「警備隊に捕まって帰った者はいません」
ルパン「誰だい、あんたたち − あ、もしかして西へ逃げようって人たち?!」
男「(頷いて)物好きだね、あんたたちも。逆にこんな所へ来るなんて。それも母親連れでさ」
ルパン「母親?!」
男「その人がそうだろ − (と指さす)」
横にすまし顔のローゼが来ている!
ローゼ「宿賃を。ホホ、あと二時間よ」
五ェ門「ん?!今度は人形じゃないぞ」
次元「マダム、宿賃欲しさに東ベルリンまで追っかけてきたのか?!」
ローゼ「ええ。何をグズグズしてるの、あんたたち。青いダイヤはホラ、すぐそこよ」
畑の向うに、赤黒いシミのついた塀。
ルパン「おッ!次元、五ェ門、行こうぜ!」
駆け出そうとするルパン。と、五ェ門が地に付く寸前のルパンの足首を掴む。
ルパン「五ェ門、何をする?!」
五ェ門、足許のジャガイモを引き抜く。
芋の代りにぶらさがっている地雷!
五ェ門「地雷原だ。踏んだらイチコロだぞ」
ルパン「(キッと見て)マダム、こいつを踏ませて殺そうとしたんだな!」
ホホホと闇へかけ去ってゆくローゼ。
ルパン「くそッ、待て、宿賃マダム!」
ハイドリッヒ「ルパン、そこにいたのか」
ヒルデの去った方向から、兵士たちを具したハイドリッヒがくる。
蒼くなってホールドアップの逃亡民たち。
ルパン「貴様ッ、不二子をどうした!」
ハイドリッヒ「処分した、適当にな」
ルパン「なに?!殺したってのか?!」
ハイドリッヒ「国境侵犯者は射殺!」
拳銃を抜いて、連射するハイドリッヒ。
倒れる次元。
倒れる五ェ門。
倒れるルパン。

C・M

2ページ目へつづく

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