第七弾
TV新ルパン三世 未放送台本より
「ベルリンの壁 大突破」全文掲載

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○ルパンたちの死体に −
ザーッと雨が降りしきっている。
ハイドリッヒや逃亡民の姿は既にない。
と、クシャミをして死体が起き上がる。
ルパン「へへ、さっき少し細工をしといたのさ」

戦車上でハイドリッヒに組みつくルパン。
ハイドリッヒの拳銃から弾丸を抜きとり、ウインナ・ソーセージを詰め込む。

ルパン、上着にくいこんだソーセージをポイと口に放りこんで、
ルパン「さて、青ダイヤを貰いに行こうぜ」
五ェ門「ウム、せめて不二子の墓に供えてやろう」

畑の畝の間を、モコモコと移動していくジャガイモの葉のかたまり三つ。
その上を探照灯の光がかすめすぎる。
ジャガイモの葉を全身にかぶせて擬装したルパン、次元、五ェ門である。

○塀の端のところ(夜)
ルパンたち、塀が途切れて鉄条網に連なっている箇所に這ってくる。
次元「ルパン、こりゃ全然方向違いだぜ」
成程、赤黒いシミは遥か向うだ。
ルパン「これでいいの − 五ェ門、お前、ソーセージより竹輪が好きだって言ったな」
五ェ門「ああ。それがどうした」
ルパン「だからさ、竹輪作戦でいくんだ」
ソーセージをとりだし、棒切れで中をスポッとくりぬいて見せて、
ルパン「こんなふうに、コンクリートの中をくり抜いてガラン洞にしちまうのさ」

ルパン、小型サク岩機の先端にガチッと斬鉄剣を装置して、スイッチを押す。
回転してコンクリートを切ってゆく剣。
次元と五ェ門、コンクリートの破片を手渡しリレーで塀の端にポイポイと捨てる。

○監視哨(夜)
その光景をギラッと見るハイドリッヒ。
ハイドリッヒ「あいつら、生きていたのか?!」

○塀の外(西ベルリン側)(夜)
銭形、警官たちに例のシミを指して、
銭形「いいか、ルパンたちはまた必ずここを狙ってくる。よく見張るんだ!」
と、ブーン!と鈍いサク岩機の音。
銭形「何だ、あの音は?!
突然、塀の中から銭形の鼻先スレスレにズバッと剣がとびだす。
銭形「(ギョッ)な、何だ、こりゃ?!」

○塀の内部(夜)
ルパン「いけねえ、掘り間違えちゃったぜ」
ルパン、剣付サク岩機を中へ引き込んで、更に掘り進む。
と、足許に見えてくるマンホールの蓋。
ルパン「あったァ!この下に青ダイヤだァ!」
五ェ門「はしたない。大声を出すな」
ルパン「そうね、壁に耳ありって言うもんね」
ん?!となるルパン − さきほど剣で破れた小穴からニュッと耳が出る!
ルパン「ほ、ほんとに壁に耳があるぜ?!」
その耳をグイッと引っぱるルパン。
薄皮一枚となった壁がバリッと破れて、ヌッと現れたのは鬼瓦のような銭形の顔。
銭形「ルパン〜〜〜!」
ルパン「オニョ?!と、とっつあん?!」
ルパンたち、サッとマンホールへとびこみ、鉄梯子を降りてゆく。
銭形「待てェ、ルパン!……ウッ!」
脳天を一撃されて気絶する銭形。
ハイドリッヒと兵士たちが来ている。
ハイドリッヒ、電動鋸を鉄梯子に押し当てる。根元から断ち切られる鉄梯子。

○マンホールの中(夜)
うわーッ!と墜落してゆくルパンたち。
マンホールの底に叩きつけられる。
五ェ門「しまった!閉じこめられたぞ!」
頭上でバタン!と閉まるマンホールんの蓋。

○マンホールの上(夜)
ハイドリッヒ、兵士たちを指揮して、ドカドカとコンクリートで固めている。
ハイドリッヒ「こいつも固めてしまえ!」
兵士たち、銭形の顔と手足の先だけを出して、塀に塗りこんでゆく。
銭形「(我に返って)わッ!何をするウ!」

○マンホールの底(夜)
ルパン「チキショウ、生き埋めか」
ライターを点けてキョロキョロ見廻す。
ルパン「あれエ?!ダイヤなんてないぜ?!」
次元「大体ジンガーの骨さえ見当たらんぞ?!」
五ェ門「ハテ面妖な − ム?!何だ、あれは?!」
底の土からニュッと出ている人間の手首。
三人、その辺の土をかきわける。
現れたのは、不二子の顔!
ルパン「不二子!」
五ェ門、不二子にカツを入れる。
微かに呻いて、眼を見開く不二子。
ルパン「しっかりしろ!どうしたんだ!」
不二子「ルパン!(ひしとかじりついて)あたし、見たのよ、怖かった……」
ルパン「見たって、何を?」

○警備隊司令部・中庭(夜)(回想)
ダダダ!と兵士のマシンガンが唸る。
悲鳴をあげて倒れ伏す逃亡民たち。
黒猫を抱いて、冷然と見ているハイドリッヒ。兵士たち、死体やその手荷物から金や貴金属の装身具をはぎとる。
不二子の声「あのハイドリッヒって男は、西側へ逃げようって人たちを捕まえて、金目の物を強奪していたの」
銃をつきつけられて立っていた不二子。
あまりの凄惨な光景に、崩折れる。

○マンホールの底(夜)
不二子「あたし、それっきり気を失って………」
ルパン「なに?じゃ奴はまるで追剥ぎじゃないか」
その時、ゴウッとマンホールが震動する。
ルパン「わッ、ジ、地震!」
五ェ門「いや、地震にしては変だぞ」
壁面の土が外側へ剥落すると − 次の瞬間マンホール全体は透明な試験管状のカプセルで地底の中空に浮かんでいる!
それはワイヤーで吊るされていて、グングンと地底の大空洞を下降し始める。
次元「(壁面を叩いて)特殊ガラスだ。これは一種のエレベーターだぜ」
不二子「まァ、変ね!地底に星が出ているわ!」
五ェ門「ルパン、あれは何だ?!」
眼下に、白亜の壮麗な館が見えてくる。
ルパン「地下にあんな邸が?!」
次元「分った!ヒットラーの地下宮殿だ!」
ルパン「あのヒゲのオッサンの?!」
次元「間違いない。あれは第三帝国の印だ」
宮殿に双頭の鷲の浮き彫り。
次元「噂に聞いたことがある。ヒットラーは非常用に地下宮殿を作ったってな。だが結局利用することなく死んだ。あのマンホールはその入り口の一つだったんだ」
ルパン「じゃ あの星はプラネタリウムか」

○地下宮殿・表庭(夜)
カプセル・エレベーターが着地する。
ハイドリッヒが兵士たちを従えて現れる。
ルパン「あッ、ハイドリッヒ」
ハイドリッヒ「フフ、ルパン、驚くのはこれからだ」
ハイドリッヒ、仮面をとる。現れたのは、頬に傷のある中年男の顔。
ルパン「!」
- フラッシュ。若き日のジンガーの顔。
ルパン「その傷?!もしやお前はジンガー?!」
ジンガー「その通り。二十年前、マンホールに生き埋めになったジンガーさ。ヒットラーのこの抜穴のお陰で助かったんだ」
ルパン「そうか、そして東ベルリンで警備隊司令にまで出世してたって訳か」
ジンガー「ルパン、俺の手下にならぬか。俺たちは警備隊という表向きで国家に保護されている大組織だ。全財産を抱えて西側へ逃亡しようとする奴等から幾らでもダイヤなぞ奪える。手下になれ、ルパン」
ルパン「お断りだね、追剥ぎの真似は」
ジンガー「そうか。では死んで貰おう。ルパン、俺が一度捕らえた女をなぜそこに戻してやったと思う。女の腕時計を見ろ」
不二子の腕時計 − その秒針がグルグル回転し、時を刻む音が急速に高まる。
ルパン「こ、こりゃ時限爆弾?!」
不二子「ルパン!とって、早く!」
ルパン、時計バンドを引きちぎってやるが、文字盤は腕にくっついたまま。
ルパン「だめだ!強力接着剤でつけてある!」
五ェ門「ルパン、とにかく外へ!」
五ェ門、剣を抜き、ガラスの壁に切りつける。カキーン!とはねかえされる剣。
ジンガー「フフ、その特殊ガラスは剣では切れぬ。出口は上だけだ」
が、上の口までは十数mの高さだ。
ルパン「くそッ、おい!青ダイヤはどこだ!」
ジンガー「(上を指して)フフ、あそこだ」
ルパン、?と小型望遠鏡で上を見る。
キラキラ光っている満天の星 − それは全て絹糸で吊るされたダイヤではないか!
ルパン「ダイヤだ!星はダイヤだったのか!」
ジンガー「全部俺の盗品さ、宵の明星を見な」
青く輝く宵星、それこそが − 。
ルパン「青ダイヤだ!」
ジンガー「もう遅い。爆発の時刻だ、フフ」
悲鳴をあげてルパンにかじりつく不二子。
ルパン「(ハッとして)次元、星を射て!」
上空へ拳銃を連射するルパンと次元。
絹糸が射ち抜かれ、ヒューッと落ちてくるダイヤ。それが不二子の腕時計の文字盤をパーンと砕いて針を飛ばす。
ルパン「これで時限装置はパーだぜ」
ジンガー「く、くそッ!」
ルパンと次元、更に天空へ射ちまくる。
流星のように降ってくる無数のダイヤ。
それが容器に激突して、ガラスの壁を砕く。
素早く脱出するルパンたち。
ダイヤの驟雨、兵士たちにも襲いかかる。
逃げ惑い、バタバタと倒れる兵士たち。
ジンガー、腕にダイヤの一撃を受けて、ウッとしゃがみこむ。
ルパン「今だ!青ダイヤも射ち落せ!」
青ダイヤを狙って拳銃を射つ。
と、青ダイヤがサッと横に逃げる。
ルパン「アレ?!ダイヤが動きましたよ?!」
青ダイヤ、ピョイピョイと闇の中をはねて − 宮殿の傍に眼もくらむほど高い石段があるのだが、その中段にサッととびおり − 何と、例の黒猫となる。
その片眼に光っている青ダイヤ。
不二子「まァ!青ダイヤはあの猫の眼にはめこんであたのよ!」
ジンガー、やにわにダッと石段を駆け上ると、黒猫を抱き上げる。
ジンガー「ルパン、これだけは渡さんぞ!」
ルパン「あッ、待て!」
身を翻して石段を駆け上るジンガー。
追うルパンたち。
ジンガー、石段の頂上にあるドアを押しあけて姿を消す。
一足遅れてルパンたち − ドアに体当たり。

○或る部屋(朝)
ルパンたち、勢い余って転げこんでくる。
ルパン「ありゃま?!ここは − ?!」
五ェ門「我々の泊っていたホテルではないか」
そこはホテルの一室。暖炉のところが隠しドアになっていたのだ。
と、呻き声 − 床にローゼが倒れている。
不二子「アラ、宿賃マダムよ?!」
ルパン、駆け寄ってローゼを抱き起こす。
ルパン「マダム、どうしたんだ」
ローゼ「(隠しドアを指して)い、いま変な軍人が出てきて……いきなりあたしに襲いかかって……」
次元「なに?それで奴はどこへ?」
ローゼ「何だか急いで向うへ − 」
ルパンたち、急ぎ足に戸口へ向う。
と、その背につきつけられるマシンガン。
ローゼがニヤリとして立っている。
ルパン「マダム?!宿賃なら少し待ってよ」
ローゼの口から男の声が洩れる。
声「宿賃は命で払って貰うことにしたぜ」
五ェ門「その声は?!」
ローゼ、仮面をとると、ジンガーである。
ルパン「ジンガー?! − あッ、その財布は?!」
ジンガーの手にはいつかルパンから財布。
次元「そうか、貴様、東では追剥ぎ軍人、西では泥棒ホテルのマダムになってボロ儲けしていたのか」
ジンガー「フフ、秘密を知られたからにゃ − 」
マシンガンの引金に手を掛ける。
ルパン「ちょ、ちょい待ち、いやァジンガー、俺はあんたほどの変装の名人に初めて会ったよ。どんなふうに変装してたのか、あの世のミヤゲに見せてくれない」
ジンガー「よし、俺の技術を拝ませてやる」
ジンガー、衝立の陰に入ると、二つの仮面をパッパッと取り換え、めまぐるしくハイドリッヒとローゼになり変る。
ルパン「遅いなァ、それなら俺の方が早いぜ」
ジンガー「なに?見てろ! − ハイドリッヒ! − マダム!(女声)! − ハイドリッヒ! − マダム!(女声)」
一段とスピードアップして変装する。
ルパン「もっと早く!」
ジンガー「ハイドリッヒ!マダム!ハイドリッヒ!マダム!ハイドリッヒ!マダム!」
ハァハァと喘ぎながら変装するジンガー。
ルパン「(パンと手を叩いて)ストップ!ー あんたいま、どっちになってるの?」
ジンガー「ん?!どっちだったかな?!」
だめだねェ、自分で分らなくなったのかい。ハイ、鏡(と手鏡を出す)」
思わずその鏡を覗き込むジンガー。
ルパン、手鏡にキラリと陽光を反射させる。
眼を射られるジンガー。次元と五ェ門がその隙に、パッとハイドリッヒとローゼの仮面を奪いとる。
ジンガー「あッ、何をする!」
ルパン、二つの仮面にライターの火を点ける。燃え尽きてゆく仮面。
ルパン「ハハ、これで二度と悪事はできないぜ」
ジンガー「くそッ、殺してやる!……ウップ!」
怒鳴るジンガーの口に、ルパンの凪げたウインナー・ソーセージがとびこむ。
思わずゴクンと飲み下すジンガー。
ルパン「睡眠薬入りソーセージ」
ジンガー、ドタン!と大の字にひっくり返って鼾をかき始める。
ルパン「さァて、あの猫はどこかな?」
その時、戸口の外から、「ニャーゴ!ニャーゴ!」と猫の声。
不二子「アラ?!あっちよ!」

○同・裏口(朝)
ルパンたち、とびだしてくる。
と、「ニャーゴ!」と声がして、物陰から出てきたのは銭形。顔と手足以外は四角いコンクリート漬けのままの姿。
ルパン「アジョー?!と、とっつあん?!」
銭形「ルパン!貴様を逮捕したい一念で、俺はコンクリートから脱出してきたのだ!(オペラ調で)もう逃がさんぞォ!」

○塀の上
銭形に追われ、必死に走るルパンたち。
銭形「(オペラ調で)待てェ♪ルパンッ♪」
ルパン、何か竿をつきだして走っている。
竿の先端にぶらさげられた鰹節。
ルパン「猫はどこだい!オーイ、猫やーい!」

○教会・尖塔の十字架のてっぺん
ミニクイ追っかけを見おろして、例の黒猫が魚を食っている。
東ベルリンのビルの屋上から真っ白な雌猫がお色気たっぷりにニャーオと鳴く。
黒猫、白猫にウインクしてニャーオ。
その青ダイヤの眼がキラリと光って −

(END)

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