第拾三弾
未放映作品「ルパン8世」台本
「甦みがえれベネツィア」全文公開!

ルパン8世についての解説は、近日UPいたします。
第拾三弾では、ルパン8世の為に執筆された台本のひとつ「甦みがえれベネツィア」を紹介します。
脚本を手がけたのは高階 航氏。氏はTV新ルパン〜PARTlllで多くの脚本を執筆している。
高階航氏が最初にクレジットされたのは新ルパン111話「インベーダー金庫は開いたか」だが、
それ以前に高階 秋成という方が新ルパンの脚本に携わっており、
同一人物ならば、第55話「花吹雪・謎の五人衆(前)」から氏はルパンに携わっている事になる。

さて、今回の”ベネツィア”台本は、8世のものではあっても、
普通にルパン三世の1ストーリーとして楽しめる内容。
とはいえ、制作中止になってしまった8世の世界を少しでも覗く事が出来れば、
このコーナーの存在価値が生まれる事でしょう。
ルパン8世「甦みがえれベネツィア」ごゆっくりお楽しみ下さい。

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「甦みがえれベネツィア」脚本/高階 航 監督/りん・たろう

<登場人物>
ルパン八世
次元大介
石川五ェ門
銭形警部
峰不二子

マダム・マルコ
トマ・ポーロ

赤帽
車掌
部下
ホテル支配人

ナレーター(N)

1 地球
ー 蒼い。
N「時は22世紀。沈みゆく都ベネツィアは海の底にあった」

2 ベネツィア・全景
すっぽりとガラスの防水堰に覆われている。
サンマルコ広場は水びたし。
運河にかかる橋。
ゴンドラが通る。
その橋桁から雫がしたたり落ちてる。
ぽとり、ぽとり……。
ゆっくりと盛り上るMJQ風な音楽。
N「何故かは知らないが、人々は「ベネツィア」と聞いただけで、甘い恋の予感にふるえる。
べら棒なゴンドラの料金、その場で気絶しそうなホテルやレストランの勘定書き、
彼等には全くそれが気にならないらしい。あのルパンでさえも……」

3 サン・ラザール駅(夜)
ベネツィア特急が停車している。
声高に聞える「サマータイム・イン・ベニス」
♪ラー、ラーラ、ラララー……。
と、ゴンドリエのストローハットを頭に乗せた夢みるルパン、歌い、ひとり、悩ましく踊りながら来る。
その後から呆れ顔の次元と五ェ門。

ルパン「ベネツィアから招待状がくるなンて、俺も一寸した有名人だぜ」
次元「あんなドブ臭え所のどこがいいンだ?」
ルパン「妬くな、妬くな」
五ェ門「所詮は水びたしの都、足が汚れるだけでござる」
ルパン「お前の草履は防水加工してねぇもンな?」
五ェ門「せいぜい転ばぬように気をつけられい」
ルパン「あっ。ま、見てな?恋などしてくっから」
次元「ほー、誰と?」
ルパン「ベネツィアの女とさ」
次元「不二子でなくていいのか?」
ルパン「一寸おばんだもんな、やっぱ……」
次元「今頃、不二子がクシャミしてるぜ」

ゴトンと列車が動き出す。
ルパン、とび乗る。

ルパン「チャオ!アリベデルチ!」

二人に投げキス!

次元「夢に浮かれやがって」
五ェ門「馬鹿につける薬はござらぬ」

列車が遠ざかって行く。

4 列車・廊下(夜)
ルパンが車掌に案内されて来る。

車掌「こちらでございます」
ルパン「一等じゃねぇか?至れり尽くせりだ。誰かねえ、俺を呼んでくれたのは?」

5 同・コンパートメント(夜)
ルパン、入ってくる。
と、窓際に眼をやる女がいる。
振り向くと峰不二子。
ルパン「あらッ!?不二子ちゃん!?会いたかったぜ。その後お元気?」
不二子「なに言ってンの!」
ルパン「にはは、不二子ちゃんと一緒だなンて、夢じゃないだろうか?」

不二子、いきなりシャンパンの瓶を逆手に持ち、ルパンの頭を殴りつける。
コーン!!(瓶は割れない)

不二子「どうお?痛い?これで夢じゃないってことがわかったでしょ?」
ルパン「分った、分ったけど、痛てぇッ!!」
不二子「おばんとは何よッ!?ちゃんと聞えたわよッ!?失礼しちゃう!!」
ルパン「………ゴメン」
不二子「いやァねぇ、あなたって人は石頭なンだから?殴り甲斐がないじゃないのッ!!」

殴りつける。
バシャーン!!
瓶が割れ、ルパン、ドッと倒れる。

不二子「おやすみ、ルパン」

パチンと案内灯を消す。

6 タイトル

7 ベネツィア・サンタルチア駅
特急が到着している。
今では水堰の壁に隣接して駅がある。
不二子、ツンとして来る。
ルパンが、後から不二子の大荷物を抱えて追い駈ける。

ルパン「不二子、言っとくけどな?いいか?俺は赤帽じゃねえンだぞ!」
不二子「悪口を言ったバツよ!しっかり持ってらっしゃい」
ルパン「ここはベネツィアだぜ。もうちっとロマンチックに行こうや」
不二子「ロマンチックって顔!?」
ルパン「……こにゃろッ!!」

ルパン、カッと来て、荷物を投げつけ、散々に踏みつける。

不二子「ルパン、後で後悔するわよ?なんにもしてあげないから」
ルパン「ン?ン?優しいンだもんなァ、不二子ちゃんって。頑張ンなくっちゃ!」

すっと不二子が行く。
ルパン、ふと見ると、赤帽たちが妙な格好で防水堰にはりついている。

ルパン「おーい!赤帽!」
赤帽たち「シ、セニョール」

と、一斉に動く。
そのとたん、手が塞いでいた防水堰の穴から水が吹き出る。
赤帽たちが、穴にコルクの栓をしながら、殴り合いを演じる。
一人の赤帽がボロボロになってルパンの所に辿り着く。

赤帽「お待たせを致しましたッ」
ルパン「………!?」

ポーンと壁の栓が飛んで来る。
赤帽、うろたえて走る。
走って行くうちに、ポン、ポン、と栓が飛び、壁からやたらに水が吹き出る。

ルパン「どうなっちまってンだ!?」

ルパン、大荷物を抱え、不二子を追い駈けて行く。

ルパン「おーい、不二子!待ってくれ!」

8 同・船着場
ルパン、不二子のゴンドラに飛び乗る。

9 同・構内
次元、五ェ門、二人のゴンドラを見送っている。

次元「どうも話がうま過ぎると思ったぜ、不二子と一緒じゃねえか」
五ェ門「なにやら、きな臭い」

と、壁にはりついていた赤帽が電話を取っている。

赤帽「もしもし、マダム、マルコ様のお宅で? − あ、マダム、只今ルパンが到着致しました」

ン!?となる次元と五ェ門。
次元、ポンと赤帽の肩を叩く。

次元「マダム・マルコってのは何者だ?」

ごそりと札束出し、赤帽に一枚、二枚……と握らせる。

10 サン・マルコ運河
ルパンと不二子が乗ったゴンドラが来る。
前方にガラスの防水堰が見える。

不二子「いいわねぇベネツィアって、いつ来ても。心が洗われるわ」
ルパン「もうそんな気分にはなれねぇよ」
不二子「どうして?」
ルパン「見てみな?頭の上まで水が来てるじゃねぇか?」

寺院の屋根まで水が迫っている。

ルパン「水族館の鮫になったような気分だぜ」
不二子「夢がないこと」

と、前から、物凄いグラマーな女を膝に乗っけた銭形のゴンドラが来る。

銭形「嗚呼、時にはちらりと(女の胸を覗く)謎めいて、艶やかにみやびなるベネツィアよ。
素晴らしき君の涙、運河になりて人の心を酔わしむ」

ブチュッと女に接吻をしかける銭形。

ルパン「いよおッ、父っつあんって詩人なンだね?知らなかったぜ?」
銭形「ンガッ!?……ルパン!?」
ルパン「奥さん?紹介してよ?ご挨拶しなくっちゃ」


銭形、往生極まる。

銭形「ムホ、え…そのなんだよ、ほら……今日は公僕を離れとーるッ」
ルパン「ふーん、お楽しみってわけ?」
銭形「バカもーん、お前には友情ってものがないか?それでも男か?」
ルパン「アリデベルチ、父っつあん!」
銭形「グラッチェ、アリデベルチンコ!」
ルパン「ン?」
銭形「ロシア系なンだよ、このカアちゃん。ガハハハ」

不二子、呆れて銭形のゴンドラを見送る。

11 ドゥカーレ宮殿・広間
その床までたっぷりと水が来ている。
ルパンと不二子のゴンドラが通る。
二人、ひっくり返って天井を見上げる。
そこに巨大なフレスコ画「ベネツィアの礼讃」。

12 防水堰監視塔
 − 総ガラス張りだ。
マダム・マルコとイタリア風は紳士トマ・ポーロがいる。

マダム「先刻、ルパンが着いたわ」
トマ「なにもこんな防水堰をつくる事はなかったんだ、放っておけばベネツィアは自然に沈んでいた、
とっくに財宝のありかが分っていた筈だ」
マダム「バカね、それでもお前は私の弟なの?頭が痛くなるわ!」
トマ「………」
マダム「世界中が私達を救ってくれたのよ、ベネツィアを沈めるべきじゃないって、この防水堰の工事を背負ったのは誰なの?」
トマ「……俺だ」
マダム「散々手抜き工事をして、ここの管理会社の社長におさまって、お蔭でお前はボロ儲け出来たじゃないの?違う?」
トマ「………!」

監視塔がエレベーター式に下りて行く。
二人、外に出る。
 − そこは丁度、防水堰の底で船着場になっている。

マダム「いよいよご先祖様の財宝を探す日が来たわ、
トマ、今度こんな手抜き工事をしてごらん、この私が承知しないわ!!」

マダム、トマの頭を掴み、防水堰の壁にゴチン!とやる。
防水堰にメリメリと亀裂が走る。

13 ホテル・ロビー
豪華絢爛。
支配人、不二子とルパンを迎える。

支配人「ベネツィアへようこそ」

つッと歩み寄る。
その瞬間、立っていた床の穴からピューッと水が吹き出る。
すぐに金モールの従業員が、さりげなく床を踏みつける。
ニコリと二人に愛敬笑いをする従業員。

二人「………!?」

14 同・スィートルーム
ルパンと不二子が支配人に案内されて来る。

支配人「どうぞ、こちらでございます」

防水ガラスの温室のような部屋。
緑のあふれている。
眼の前にサンマルコ寺院。

不二子「まぁ、素敵なお部屋だこと」
支配人「百年ほど前にイギリスの女王陛下がお泊りになられました」

支配人、すかさずルパンに手を出す。
ルパン、ポケットのあちこちを探してチップを払う。

支配人「では、お楽しみを」

片目をつぶって去る。

ルパン「おい、不二子……!?」

シャワールームから顔を出す不二子。

不二子「なぁに?」
ルパン「え?……もう裸になっちまったのか?」
不二子「ええ」
ルパン「一寸早すぎはしないか?」
不二子「どういう意味?」
ルパン「あ、いや……にはは、俺を招待してくれたのは誰だい?」
不二子「私よ」
ルパン「……不二子が!?」
不二子「そう」
ルパン「なんで?」
不二子「恋人じゃないの、たまには二人だけになりたいわ、だからよ」
ルパン「ウッシー!違いない!」

ころんとベッドにひっくり返るルパン。
ン!?……となるルパンの顔。
ルパン「お、おいッ!不二子!?」
不二子「今度はなぁに?」
ルパン「大変だぜ!」
不二子「どうしたの?」
ルパン「ベッドが一つしかないぞ!!」
不二子「そうよ、ダブル・ベッドだもの」
ルパン「ダ、ダブル!?」
不二子「見れば分るでしょ?」
ルパン「(ゴクリと生唾を飲み込んで)ほンじゃ、俺と不二子ちゃんがここでおねんねすンの?」
不二子「そうよ。二人で素敵な夢を見ましょ。宜しくね、ルパン?」
ルパン「(真赤になって、小声で)ヨロシクお願いしまーす」

ルパン、シャワーを使う不二子の妖しい裸体をポーッとなって見ている。

ルパン「むひひ、不二子ちゃんとおねんねッ!うッれしいッ!!」

でれっとなってベットから転げ落ちる。
ジャボン!
水が床まで来ている。
ルパン、吃驚して窓際に眼をやる。
サンマルコ寺院が半分ほど水に沈んでいる。

ルパン「……不二子!!」

水着の不二子がシャワールームから艶然と現われる。

不二子「ルパン、人間万事用意周到でなくっちゃ」
ルパン「………?」
不二子「防水堰が破れたようよ」
ルパン「あ、そう?それはそれとして、どうだろうか?」
不二子「ルパン、洪水なのよ。寝ちゃいられないわ」
ルパン「………くそッ」

マダム・マルコのモーターボートが窓から来る。

マダム「不二子さん、お迎えに来てよ」
不二子「有難う、マダム、こちらが私の恋人、ルパン」
マダム「ボンジョルノ!」
ルパン「……ボンジョルノ」
マダム「機嫌が悪いこと」
不二子「寝そびれちゃって、膨れているの」
マダム「うふふ、あんまり意地悪をしちゃ駄目よ、可哀想じゃないの、さ、お乗んなさい」

不二子、乗り移る。
ルパン、ベットにひっくり返っている。
不二子「ルパン、早く?なにしてるの?」
ルパン「俺はこのベットが気にいってンだ」
不二子「あ、そう、勝手になさい!」

15 ベネツィアの海
サンマルコ寺院が八分ほど水に没している。
不二子とマダム・マルコのモーターボートが行く。

16 マダム・マルコ邸
 − 海にそびえ立つ。
ベネツィア風な白い優雅な館である。
モーターボートが着く。

17 同・広間
不二子とマダム・マルコが来る。

マダム「不二子さん、約束の物を持って来て?」
不二子「勿論」

石ころのようなダイヤモンドを出す不二子。

マダム「んまぁ、凄いダイヤだこと!?張り込んだわねぇ」
不二子「ええ」

マダムも不二子と全く同じな石ころのようなダイヤモンドを出す。

マダム「これで如何?」
不二子「結構だわ」

と、二人がダイヤモンドを見比べる。

マダム「さて、この勝負どっちが勝つかしら?」
不二子「私に決まっているわ、だって、ルパンは桁がはずれているもの」
マダム「凄い自信だこと」

18 ベネツィアの海
次元、ルパンのダブル・ベットに船外機を取り付けている。

ルパン「放っといてくンねえか、俺はこのままアドリア海まで行きてえ気分なんだ」
次元「全く世話の焼ける野郎だぜ、お前は」

船外機のエンジンをかける次元。

次元「不二子とマダム・マルコはつるんでいやがら、不二子がただでお前をベネツィアに招待するもンか!」
ルパン「………!?」

ダブル・ベットが波をけたてて行く。
と、銭形、眼にくまをつくり、精も根も使いはたした姿でボンヤリとベットに座っている。
その傍らでグラマーな女がムシャムシャとなんか食っている。
二つのベットがすれ違って行く。
前方に停止しているルパン衛星。

19 ルパン衛星・中
ルパンと次元。
瞑想の五ェ門が坐っている。

次元「あの女たちはベネツィアの財宝を狙ってンだとさ」
ルパン「ベネツィアの財宝だ!?」
次元「言い伝えによると、この都をつくった連中は、やがて此所が水の底に沈むってことを知っていやがった、
そこでマルコポーロに命じ、ひそかに財宝を隠させたって訳だ」
ルパン「なんで?」
次元「その財宝で、再びベネツィアを甦らせろという訳だ」
ルパン「ほー、で、その宝の隠し場所は?」
次元「マルコ家の子孫じゃねえと分らんとさ」
ルパン「誰から聞いた?」
次元「駅の赤帽さ、大分、金を使ったがな」
五ェ門「察するに、宝の隠し場所を知るためには、ベネツィアを一度沈める必要があったようだ」
次元「マダム・マルコの弟は、トマ・ポーロと言ってな、防水堰管理会社の社長さ」
ルパン「そいつがベネツィアを水びたしにしたってのか?」
次元「そんな処だろう」

2ページ目へつづく

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