第拾六弾
幻の劇場版ルパン三世 未使用台本
「三代目襲名」・全文掲載!

 ルパン三世は、当初TVアニメとしてではなく、劇場用長編アニメとして企画され、
パイロットフィルムも劇場用として制作されたということは、ファン・マニア間では有名な出来事です。
その、劇場版として企画が進んでいた段階で執筆された台本を、探索隊は入手。
このページで全文を掲載させていただくことにいたします。
(あくまで「ルパン三世」という”文化”を、より一般に浸透させることを目的としており、著作権等の侵害を目的としたものではありません)

TV旧ルパン三世より以前の「ルパン三世」の台本、つまり劇場用アニメとしてのルパン三世の台本は、
(具体的に文献等で確認がとれているものは)
「ルパン三世 華麗なる犯罪 絢爛たる狂気」(大和屋竺)と、「三代目襲名」(北原一)のみになります。

この「三代目襲名」は、劇場用としていくつか候補があげられた台本のうちの1本になりますが、
内容は、現在のアニメルパンとは設定も雰囲気も異なる、まさに異質のものです。
所々に歌が挿入され、ミュージカル・アニメといった印象もあります。
個人的なイメージとしては、原作初期+念力珍作戦…といったところでしょうか。
冒頭は原作初期の「男1000匹」のエッセンスが強く盛り込まれているため、かなりエッチです。
原作初期をご存知ない方や、アニメのルパンが全てだという方には、「………なに、これ?」と、思われてしまうかもしれません。
それだけ、好みの分かれる内容です。
兎に角、この台本が発掘され、公開されることは、「ルパン三世」の歴史を網羅する上で重要な意味を持つものだと思います。

東京ムービーによる「ルパン三世」、真のEpisode1 「ルパンV世 三代目襲名」、お楽しみ下さい。

注・部分的に日本語がヘンだったり、「(かっこ)内の終わり方が ”。」”と ”」” だったり、ルパン三世・ルパンV世と統一されていなかったりしますが、
  これは台本を忠実にテキスト化した結果ですので、ご了承下さい。漢字の誤記や送り仮名についても、同様です。

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「ルパンV世 三代目襲名」脚本/北原 一


○ 高層マンションの一室

 若い男の大写し。
 男は裸である。

若い男 「ナ、ナニ、スルンダ!」

 男の体あたり一面一瞬にしてナイフの雨が降り、血が噴出し、画面はまっ赤に染まる。
 その画面に若い女の声がかぶさる。
 峰不二子である。

不二子 「これで九百九十九人目、因果なハナシよねえ。別に誰かにやれって言われたわけでもなし、
      特に気に入ってる遊びってわけでもないんだけど、ついついこういうことになっちゃうのよ。宿命ってとこかしら。
      ヨースルニ、退屈なのがいけないんだわァ。因果なハナシね、本当に………」

 ベッドに男に添寝するカタチで、最後のナイフを握りしめる峰不二子。
 そのナイフを正面に投げつける。


○ マンションの庭

 全身にナイフが刺さり血まみれになって死んでいる男を囲んで刑事たちが調べている。
 なかに銭形警部の顔も見える。

鑑識の刑事 「ガイシャは死後、このマンションの自分の部屋から突き落とされたようです。」

銭形 「うん、死因はナイフによる刺殺か」

鑑識 「それから、やはり直前に女性と交わったようです。

 考え込む銭形。鑑識の刑事、去る。

刑事1 「これで九百九十九人目ですね。こんな奇妙な死に方をしたのは。」

 伴刑事やってくる。

伴  「ルパン三世といい、この千人斬りの女といい、当分頭が痛いですな銭形警部」

銭形 「ああ、伴クンか。何か新しい手掛りでもあったかね。」

伴  「いや別に、何もありませんが、千人目はどういうことになるか、少々楽しみってとこですね。」

銭形 「(むっとするが、すぐ気をとりなおし)ああ、伴クン、さっきキミがワシの課に転任してから気掛りなことがあるんだが」

 二人、歩いている。

伴  「何ですか、警部」

銭形 「それはキミがある男にそっくりなのでね。」

伴  「誰です、ある男っていうのは………」

銭形 「ルパン三世さ」

 伴、笑いころげる。

伴  「あっはははは、ボクがルパン三世に、あっははは、ルパン三世というのはこんな顔をしてるんですか。あっははは。」

銭形 「とぼけるんじゃない、ルパン三世」

 銭形、まじめになって言う。

銭形 「変装の名人、ルパン三世、さあいい加減でシッポを出したらどうだ!」

伴  「な、なんですって!それじゃ、警部は本気でこのぼくを………」

 伴、猛然と銭形につかみかかる。

銭形 「いや、冗談冗談。用心にこしたことはないという話さ。
    だが、今までオレの見たルパン三世のどの顔にでもある共通点をきみも持っている」

伴  「鼻が一つで目が二つ。じゃぁ警部あなたも。ははは」

 そこへ泥にまみれ、服は破れ、顔になぐられたあとのある男が登場。

男  「銭形警部ですか、」

銭形 「ああ、お前は、」

男  「新任の伴です、………」

銭形 「ルパン!」

 怒鳴る銭形を尻目にルパンは逃げ出している。そのふり向きざま、ストップ・モーションになって-----


○ タイトル
 ルパンの顔にクレジィツト・タイトルがダブって………


○ 浴室

 峰不二子、入浴している、浴槽につかりながら、鼻歌まじりに、

不二子 「十五、十六、十七、とわたしの人生暗かった、過去はどんなに暗くても………
      別に暗くもなかったけどさ、暗かったからどうってこともないけれどね。
      暗くとも明かるくとも、夢が夜開こうと開くまいと、あたしにゃ関係ないんだ、そんなこと………」

 不二子、何者かによって足を掴まれ浴槽にぐっと引きずり込まれる。
 サッと浴槽から出現し、半分水につかった不二子に顔を近づかせる男、ルパンであるが変装している。

不二子 「ルパン!」

ルパン 「峰不二子、よく分かったな、いかにもルパン、ただいま参上」

不二子 「何言ってんの、主役が出て来なくちゃ、話にならないじゃないの」

 と、「漫画アクション」でルパンをなぐる。

ルパン 「それで?」

 ルパン、不二子をだきあげて、ベッドへ。

不二子 「それでって?何よ?」

ルパン 「ここでいうんだろ。コエテル男ルパン三世とか、ルパンって何語?とかさ。キャッチフレーズつけるんだろ」

不二子 「ヤボで間抜けなコソ泥、ルパン、女好きで、鼻もちならない自尊心」

 そう不二子に言わせながらもルパンは愛撫の手を休めない。
 おお、インサート!

ルパン 「神出鬼没の怪盗ゲリラ、人よんでルパン三世、
      かわき切った現代に夢とロマンをもたらす可能性の男、ルパン三世!
      オレのはふとい!」

不二子 「(うめきながら)ああ、さ、す、が、いい、テ、ク、ニック、を、お持、ち、ね、ル、パ、ン」

 やがてコトは終わる。

ルパン 「終わったぜ、セニョリータ。千匹目の男はどんな殺され方をするのかね」

不二子 「こんなのはどう?」

 不二子、そう言いながらベッドから身をかわす。同時にベッドは九〇度回転して、
 鉄のトゲがいっぱい出た壁との間にルパンを挟んでしまう。

不二子 「フフフ………可愛そうに、これでルパンも一巻の終わりってわけね。」

 鉄クギの壁と九〇度回転したベッドの方を見ながらつぶやく峰不二子の肩に手がかかり、

声(ルパン) 「そんなはずはない」

不二子 「ルパン」

 ちょっと驚くが、すぐ平然として、

不二子 「そうよね、そんなはずはないと思ったわ、私もっ」

 と言いながら、そばのボタンを押しベッドを戻してペシャンコにつぶれ、
 穴だらけのルパンを取り出し、紙クズのように破いて捨てる。

 と、その瞬間、別のスイッチに手を掛けると壁から二本の機関銃がルパン目がけて火を吹く。
 ルパンやられたか、と見えた瞬間、ルパンは峰不二子の背後に回り、腕を捩じ上げている。

ルパン 「まだ、まだ、見通しが甘いね」

不二子 「サースガ!そんなに簡単にいくはずがないお人よね」

 腕を捩じ上げられ、その苦痛に少々顔を歪めてこらえる不二子。
 だが、幾分恍惚ともとれる表情。

不二子 「(モノローグ)ああ、スイッチを入れる間際の一瞬のためらい。それがなかったらわたしはルパンを殺れた。
      このためらいはいったいどこから? それはあながち開幕そうそう主人公(ヒーロー)を殺してはならないという
      作品からの要請ばかりではなく、このわたし、峰不二子という存在自体に深く関わった問題なんだわ。きっと。」

 ルパン、力をゆるめる。

ルパン 「いいかい、性懲もなくオレを殺そうとするのはあんたの自由だけど、オレはお前なんかに絶対殺されないからな」

不二子 「間抜けで、スキだらけのクセして自惚れだけは一人前ね、ルパン、」

ルパン 「うるさい」

 ルパン、そう言いながら、不二子に掴みかかり、そのまま二ラウンド目に持ち込む。

不二子 「またやるの、ルパン」

 縺れ合う二人。四散している変装用の小道具が、愛撫の武器として役立つ感じ。

ルパン 「どうしてオレの変装見やぶられるのかなあ」

不二子 「それはあなたがルパンだからよ、ルパン」

ルパン 「お前どうしてオレがルパンだって言えるんだ。他の名前だっていいじゃないか。
      モンキー・パンチだって、三島由紀夫だって」

不二子 「何言ってるのよ、だってあなたルパンなんでしょ。自分でそう言ってるじゃないの」

ルパン 「そうだよ、オレはルパンさ。でも本当にオレはルパンだろうか。」

不二子 「ルパンと名乗った者がルパンなのよ。だからわたしは峰不二子。
      理由なんかないわ、あなたはルパン、わたしは峰不二子なんですもの。」

 以下、歌となる

  どこへ行ってしまったのかしら

   私の身分証明書

   朝の風に舞っていたかしら

   きのう河を流れていたかしら

   夕べの星屑に捨ててきたのかしら

   でも、もういらない

   だってわたしは峰不二子

   それだけで充分だわ


不二子 「ねえ、ルパン、身分証明書なんていらないのよ、だって、あなたはルパンなんですもの。」

ルパン 「うん。」

不二子 「ねえ、わたしの生まれた所、どこだと思う」

ルパン 「………」

不二子 「マルセイユ。港にはスエズ運河を通って、インドや中国へ出航する船が停泊していたわ、
      赤や緑や黄色の、色とりどりの旗をはためかせて………。
      その頃、日本って随分遠い所だなあって思ってた。インドや中国のまだ先なんだもの」

ルパン 「フランスでは何てえ名だった?」

不二子 「カテリーナ」

ルパン 「カテリーナ!」

 ルパン驚く

不二子 「どうしたの?ルパン」

ルパン 「カテリーナっていうのは、ルパン代々の情婦さ、齢をとらない永遠の情婦」

 不二子、半身を起こして呟く。

不二子 「ルパンの永遠の情婦、か。そしてルパンはわたしの千匹目の男。悪かないわね」


○ ルパンの回想

 すりガラスをとおしたような不鮮明なスチールが、適当に入れ替わる。

声(ルパン) 「おれはみなし児だった。どこでどうやって育てられたのか、はっきり思い出せるものはなにもない。
         思い出してもしようのないことなど、忘れちまうに限るからな………。
         適当な齢になると適当にグレ出して、見よう見真似でケチな悪さを適当にやっていたものさ。」

 画面、次第に鮮明になる。それは東京のある街角である。

声(ルパン) 「東京にしちゃあ、めずらしく星のデッカくみえるいい感じの夜だった」


○ 街

 歩いているルパン

声(ルパン) 「なんとなくいい気分だった。幾分ものがなしく。
         人恋しい気もしたが、へんにさっぱりもしていた。
         なにかいいことを思い出しそうで、それがのどまで出かかっているのに、
         もう少しのところで思い出せないような、そんな気分だったんだ」

 歩いているルパンが、露路を通りかかると、突然十人近くの男たちがバラバラと現れ、ルパンを取り囲む。

男 1 「おう、この間はよくも他人の女を可愛がってくれたなあ。この間の借り返させてもらうぜ」

 男の手にはドスが握られており囲いはズラリと取囲まれて逃げ場もない。
 ルパン、おびえる。

ルパン 「テ、テメエラ、このオ、オレを、ダレだと思ってるんだ」

男 2 「名乗るほどのお方なのかね、おもしろい、誰だい、言ってもらおうじゃないか」

ルパン 「おれは、おれは……ルパンV世」

 ルパン、そう言い終わるか終わらないうちに、ヤクザたちを片っぱしからやっつける。
 その強いこと、強いこと。

ルパンの声 「オレは思わず自分の口から出た、ルパンV世というコトバに驚いたが、
         そのとき、つつっと熱い想いがこみ上げてきて、
         『そうなのだ、オレはアルセーヌ・ルパンの三代目、ルパン三世なのだ』、
         そう何度も自分に念を押すように言い聞かせたのだ。
         その夜思い出せずに喉にひっかかっていたのは、このコトバだったのだ」

 ルパンはヤクザたちをたいらげてしまう。

ルパンの声 「ルパンV世と叫んだときのあの熱い想いは、
         アルセーヌ・ルパン直系のオレの血の沸騰であったのだろうか、
         そして、その夜からオレはルパンV世なのだから何かやらなければという焦燥感に
         急激に、駆り立てられた。何かを求めるように、街を彷徨した。」


○ 警視庁

 銭形警部がデスクに坐り、頬杖をついている。

銭形 「そろそろまたルパンV世が何か仕出かす頃だな。今度は何を仕出かすってえのか。
     どうもあいつの考えてる事はサッパリ分らん。どういうつもりなんだ」

 とつぶやくが、急に何かを思い出したように立ち上がり、被っていた帽子を床にたたきつける。

銭形 「でも、今度こそとっつかまえてやる。とっ捕まえてやるぞ、絶対。でも………」

 銭形警部のセリフはいつしか歌に移行する。
 それとともに画面は銭形警部のルパンV世。イメージの断片が繋がったものに変わる。

銭形 『 ルパンて一体何なんだ

      無計画とも見える大胆な手口

      ふざけやがって

      ルパンって一体誰なんだ

      このオレにさえ化ける変装の名人

      ふざけやがって

      ルパンって一体何考えてるんだ

      売名が目的なのか、露悪的な犯罪趣味

      ふざけやがって

      ルパン、お前どういうつもりなんだ

      あらゆるメディアを使っての予告。

      ふざけやがって

      お前はまるで英雄気取り。

      オレたちはまた負けたと人々に指さされ

      ふざけやがって

      でも、もうこれでおしまいだぞルパン。

      オレはどんなに変装しようとお前を見分けるぞ、

      もうこれでおしまいだぞルパン。

      オレはお前が今度何をやるかちゃんとお見通しだぞ。

      もうこれでおしまいだぞルパン

      オレはお前を絶対にひっとらえてやる。

      絶対ひっとらえてやる、

      絶対ひっとらえるんだ。』

 銭形、次第にエキサイティングしてきてしまいには歌にならない。

 そして今度は一変して、犯人が刑事に訊問されているような調子になって、次のシーンへ続く。


○ A銀行・内部 (銭形の回想)

 どこでも見られる銀行の営業風景だが、入口近くに銭形警部が立っており、
 少し離れてその部下らしき者たちが三人ばかりと取材の記者が数名散らばっている。

銭形の声 「オレが初めてルパンに会ったのは、忘れもしない恥辱に満ちたA銀行での事件のときだった」

 銭形警部時計を見る。

銭形 「もうそろそろだな」

 そこへルパンV世無造作扉を開けて、颯爽登場。
 片手に拳銃、片手にアタッシュ・ケース。

ルパン 「おい、手を上げろ」

 拳銃、従業員の方と店内の客および銭形たちの方に向け、彼らに一列に並ぶように目くばせする。

 みんなおとなしく、あるいはニコニコしながらルパンに従う。

部下A 「さすが職業柄、うまい紛装だ」

 ある女店員はとなりの女店員に、

女店員A 「ねえ、映画スターの黒沢年男でしょ」

女店員B 「決まってるじゃない」

女店員A 「まるで本物って感じね」

女店員B 「プロですもの」

ルパン 「うるせえ!ぶつぶつ言うんじゃねえ、いいか、ちょっとでも動いたらぶっぱなすからな、おい、支店長」

支店長 「はい」

ルパン 「支店長はお前か」

 ルパン支店長の前まで行って、

ルパン 「おい、金を出せ、金だ。早くするんだ。ちょっとでも変な真似するとぶっ放すぞ」

 支店長、札たばを持ってくる。

 ルパン、札たばを持っていたアタッシュケースにつめ込む。

 ルパンがちょっと目を放した隙に一人の銀行員が非常ベルを押す。

 けたたましく鳴る非常ベル。

 銭形、その銀行員に目で合図する。

銭形 「いいタイミングだ(つぶやく)」

 かねてから打ち合わせてあった行動であったのだ。

 そして今度は強そうな銀行員がルパンが非常ベルで動揺でもすれば飛びかかる構えを見せるが、
 ルパンは落ち着いたものである。

ルパン 「へん、無駄だよ、そんなもの。このオレ様にはそんな子どもだましは通用しないんだな。
      何せ、このオレは、いいか聞いて驚くなよ、アルセーヌ・ルパン直系、ルパンV世様さ、
      あっははは、あばよ」

 ルパン、銃を構えながら扉に近づき、外へ出る。

銭形の声 「オレはルパンV世と聞いたとき、噴き出しそうになり、こらえるのに苦労したものだった。
       たかが予行演習なのにすっかりメーキャップして、しかも凝りに凝ってルパンV世と名乗るなどとは。
       オレはあのスター黒澤年男の人気の一端に触れた思いだったね。
       いつしか自分自身も熱狂的なファンになりそうな気配さえ感じた程だった。しかし………」

 銭形の独白が途切れると、銀行内部は新聞記者連のインタビューなどで若干騒然となっている。

或る女店員 「迫真の名演技だったわね」

飛び掛ろうとした銀行員 「ちょっと打ち合わせと違ったけど、あれでいいのかな」

支店長 「皆さん、どうもお疲れさまでした。これで予行演習も無事終了いたしました。
      銭形警部、今日はわざわざおいでいただき、どうも………」

 そのとき扉が開き、映画スター黒沢年男登場。

黒沢 「手を上げろ!」

女店員 「まあ、メークアップ落としてまたやって来たのね」

黒沢 「手を上げろ!」

 みんな言うことを聞かない。何となくチグハグで、白けた感じがあたりに漂う。

 黒沢、それに耐えかねて、

黒沢 「どうもスイマセン。車が道を間違えたものですから。
    ちょっと遅れたくらいでそう変な顔しないで下さいよ」

 そう言いながら頭をかく。

支店長 「え・じゃあ、さっきのは………」

 支店長、その場で失神!

銭形 「支店長、まさかあなた本物の札束を」

 部下B、まっ蒼になって、

部下B 「警部、予行演習だからこの際本物使ったらと言ったのはあなたですよ」

 銭形、ブルブル震え出し、

銭形 「は、早く本署に電話を!そ、それから、ミ、水をくれ」

銭形の声 「かくしてルパンV世はオレ、つまり宿敵銭形平太に挑戦状をたたきつけたのだ。しかし一見
       無造作のようではあるが、何と巧妙に、用意周到に仕組まれた犯行であったことだろう。
       黒沢年男が乗って道を間違えたタクシーの運転手もルパンの一味に間違いなかった。
       そして銀行員、或いは新聞記のなかにも巧妙にやつの一味が送りこまれていたのではなかったか。
       偶発的なアクシデントに見せかけて、その裏では測り知れない規模の組織が、
       一分のスキもない綿密な計画を刻々遂行していたのにちがいない!」


○ 警視庁・内部

 資料をひっぱり出している銭形、
 銭形、新聞を取出しめくる。

銭形 「ルパンV世の犯行現場に立ち会わせた新聞記者の連中は特ダネとばかりにハデに書くこと、書くこと。
    おかげで警察の面目まる潰れ、ルパンはマスコミの話題を独占。
    ふん、怪盗ルパンV世、白昼五千万円強奪、警察立ち合いのもとでの犯行か」

 銭形、見出しを読む、

銭形 「女子銀行員の話、か、こんなもんまで載せおって。」

女子銀行員の声 「なんてたって、カッコよかったわ、落着いてて一部のスキもなくって、
            私ね、初めは黒沢年男が紛装してると思ってたじゃない。
            それが映画で見るのより上手でしょ。だから、いつの間にかこんなに演技が
            上達したのかしらって思ったの。でもやっぱり黒沢年男じゃなかったでしょう、
            ルパンV世ですもんね。本物はやっぱりどこか違うもんよね。
            黒沢年男だったらどこかおどおどしてれよね、あんなビッシリ決まってないわよね。
            ルパンV世ってやっぱりスーテキだわ。」

 以上の話の途中から画面は現場で新聞記者に話す女子行員に変わり、話が終わると再び、銭形に変わる。

銭形 「うぬー、ルパン」

 読んでいた新聞をたたきつける。


○ 警視庁

 デスクに坐っている銭形のところへあわてて部下の刑事がかけつける。

刑事 「警部!大変です。」

銭形 「どうしたんだ。」

刑事 「只今、中央競馬会、ならびに朝日、毎日、読売の三社からほぼ同時に連絡がありまして、
     このような手紙が舞い込んだそうです。」

 銭形、メモを読む、

銭形 「ダービー当日、ヤシマゲッコウいただくよ、ルパンV世」


○ 街

 夕暮れの繁華街である。ぼちぼちネオンサインもつき、電光掲示板はルパンV世のニュースを告げ、
 街頭の新聞屋では夕刊が飛ぶように売れている。

銭形の声 「折も折、五千万円強奪のルパンV世の話題は頂点を越てはいたぎ、かえって人々の心に
        根強く潜在していって、ワラストレーションの発散に一つの方向を与えてしまった。
        ルパン神話を形成つつあった時期なのである。人々は表面上はその犯罪を否定しながらも
        淡い漠とした、しかし強大な期待をもってルパンを見守っていた。それはあたかもファシズム
        下に於ける大衆心理のようなものであった。ああルパン!貴様はそこまで見越して、
        すべて計算ずくで事を運んでいたのか。ああ、何て奴なんだルパン。ルパン、いかなる緻密な
        組織で、いかなる周到な陰謀をたくらもうともこの銭形平太がいることを忘れるなよ!」


○ 東京府中競馬場

 厳重な警戒がしかれている。

銭形の声 「ダービーの行われる東京府中競馬場では一週間前から厳重な警戒がしかれた。
       何しろ単勝人気抜群の本命馬ヤシマゲッコウをいただくというルパンの挑戦に、
       警視庁の名誉をかけた警戒であった。もはやどんな失敗も許されなかった。
       そして折よくばルパンをひっ捕えねばならなかった。」


○ 場外馬券場

 ヤシマゲッコウの単勝が売りに売れている。

銭形の声 「ヤシマゲッコウは予想より圧倒的な人気を集めた。それは人々の日本の警察への信頼が
       もたらした結果か、それとも、ルパン三世への期待がマゾヒスティックに屈折してそのような
       結果をもたらしたのか。どちらとも言い難いが、願わくは、日本の警察への信頼はまだまだ
       失われていないからだとオレ思いたい。」


○ 東京府中競馬場

 ダービー当日である。

 ヤシマゲッコウの安否をこの目で確かめようと入り切れない程の人でごった返している。
 やがて、各馬無事にゲイトインする。
 見守る銭形警部とその部下。

部下 「やっぱり、いたずらか、ただのおどかしだったのでしょうかね。」

銭形 「うーむ」

 と、難かしい表情で目は各馬から離さない。
 号砲が鳴る。各馬一斉のスタート。

 本命ヤシマゲッコウ、外ワクにも関わらず早くも好位置をキープ。

 第二コーナーを回る頃は早くも鼻の差ぐらいでトップ

 第二コーナーか第三コーナーをかけて各馬を断然引き離す。

 第三コーナーを回り、いよいよ第四コーナーへ、ヤシマゲッコウの断然リード、
 後続馬との差は三馬身以上。

 さて、第四コーナーを通過して、最後の直線へ。

銭形の声 「日本の警察の総力を上げての警備は完璧であった。
        第四コーナーを回るまで、あのような出来事が如何に防げただろうか。」

 最後の直線にさしかかると、ヤシマゲッコウは忽然と姿を消す。

 各馬ゴールイン。一着はベルクイト、二着、バルビ・フォルテン、三着、………
 しかしヤシマゲッコウの姿は場内どこを探しても見当らない。

 しかし、騎手はゴールに立っている。

 場内は騒然となる。
 歯ぎしりする銭形。

銭形の声 「たしかにヤシマゲッコウは第四コーナーを回るまでいた。現に野平騎手は消えていない。
       彼が語るところによると、第四コーナー目前までは覚えているが、気がついたら馬は消えて
       自分だけゴールに佇んでいたと言う。
       だとすると四コーナー以前にはヤシマゲッコウは存在した。ということだ。
       その後徹底的に四コーナーを中心に競馬場の科学的分析を行ったが、
       何一つとして謎は解けなかった」

 以上、騒然とした場内に銭形の語りがかぶさる。


○ 警視庁

銭形 「一体、どういう訳なんだ、ルパン、ふざけやがって、お前は」

 再び立ち上がり、帽子を床にたたきつける。


○ タイトル

 「序章」 終


○ タイトル

 「休憩」 始まり


○ ルパンV世の書斎

 大きなひじかけのついた重役椅子にすわり、笑いころげるルパン。

ルパン 「あっははは、あっははは、どうやってヤシマゲッコウを盗んだか知りたいって、
      あっははは、ルパンV世の辞書には不可能という字はないのさ、あっははは、あっははは」


○ 東京ムービーのスタジオ

 眠り薬でも飲まされたらしくアニメーター全員眠りこけている。

 そっとしのびこむルパンV世。

 ヤシマゲッコウの描かれているセルをヤシマゲッコウだけバックの色をぬって消してしまう。


○ ルパンV世の書斎

 再び笑いころげるルパンV世。

ルパン 「あっははは、あっははは、あっははは」


○ タイトル

 「休憩」 終

2ページ目へつづく

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