第拾六弾
幻の劇場版ルパン三世 未使用台本
「三代目襲名」・全文掲載!

1ページ / 2ページ / 3ページ


「ルパンV世 三代目襲名」脚本/北原 一


○ タイトル

 「三代目襲名」 の巻


○ ルパンの部屋

 ルパン、自分の犯罪記事を新聞を広げ、パイプを口にくわえながら読んでいる。

 扉をノックする音がする。

ルパン 「はい、どうぞ」

 ノックが続く

 ルパン、鍵をかけていたことに気づき、開けに立つ。

 ルパン、開けると老人。ベルナールが立っている。

ベルナール 「ルパンV世さまで・・・・・・」

ルパン 「ええ」

ベルナール 「坊ちゃん、よくまあ御無事で、おすこやかに成長なさって……」

ルパン 「えっ」

ベルナール 「アルセーヌ・ルパンさまの意志を継ぐのはあなた以外にはおられません。
         私は一目見てそう確信いたしました」

ルパン「一体何の話?まあ、中に入ってよ」

 ルパン、老人を部屋の中に案内する。

 老人、椅子に浅く腰を下ろし、話し始める。

ベルナール 「私はフランスからまいりました。実はフランスのルパン帝国では」

ルパン 「ルパン帝国!そんなものがあったの?それで……」

 ルパン、老人の話を途切ってあせった様子で話すので、再びベルナール、ルパンをさえ切って。

ベルナール 「まあ最後までお聞き下さい。
        そのルパン帝国では、いまアルセーヌ・ルパン様が死の危機に瀕しております。それで私は」

 ルパン、突然、ある気配を感じ取りカーテンに向ってナイフを数本投げる。
 と、バッタリ、ピストルを手にした若い男が倒れる。

 ルパン、倒れた男の所まで行き、ピストルを取り上げる。

ルパン 「どうやら、あなたつけられたね」

ベルナール 「面目ありません。フランスから抜け出すときも命からがらでした。
        それで、ルパン帝国の跡目相続をめぐって、いま大もめにもめている最中なのです。
        ルパンU世様はもういまは亡き身だし」

ルパン 「亡き身? ルパンU世というとオレの親爺に当るはずだけど……」

ベルナール 「ああ、お父様の死に目に会えなかったばかりか、お亡くなりなったことも御存知なかったのですか、
         お可哀そうに……」

 ベルナール、泣き始める。

ルパン 「それで?じいさん」

ベルナール 「はい、それで、一応ルパンV世様がフランスにもいることはいるのですが、はい、
        あなた様の腹ちがいのお兄様に当るのでしょうか。
        ところが、このお方が甲斐性なしで、不甲斐無くて、とても見ちゃいられないのです。
        その上、もっと悪いことには、後ろにアル・カポネという腹黒い奴がついているのです。
        あのルパンV世様では跡目を継いだ途端、そのカポネにルパン帝国を乗っ取られてしまうのは必定……。
        今でさえ、もうカポネの言うなりなのですから。私たち、カポネに反対する少数派は
        ルパンU世様の隠し子が日本に子供のとき送られたというウワサを聞きつけて、
        こうしてはるばる日本に駆けつけて参ったわけなのです。
        さあ、さあ、ぐずぐずしちゃあおられません。さあ、早速参りましょう」

 ベルナール、ルパンをせかせて、旅立とうとする。

ルパン 「まあ、ちょっと待て」

 ルパン、ベルナールを制して、瞑目。

ルパン 「ルパン帝国の跡目か。正式にルパン三世を襲名するっていうわけか。本物のルパンV世になるって訳だな。
      何言ってるんだ。本物もウソもありゃしねぇ、本物のルパンV世だもんなオレは。
      ルパンV世を襲名するのは当然の話って訳だ」

 ルパン、一人ごとを言っている。

ベルナール 「何をブツブツおっしゃってるんですか、さあ早くしないと間に合わないかも知れないんですよ」


○ 大空

 飛んで行くジェット機。

 ルパンV世の唄がかぶさる。


 「ルパンV世の唄」

 1.ルパンV世って本当はいるのって聞かれたら

  答えるのに困ってしまう。

  あなたは本当にルパンV世なのって聞かれたら

  答えるのに困ってしまう。

  本当は 本当は 本当は

  本当に 本当に 本当に

  そんなコト言い出したらキリがない

  だからオレはルパンV世さ


 2.黄色いひまわりがまっ黒になっていたら

  何故なのかって悩んでしまう

  朝太陽のかわりに月が出たら

  何故なんだろって悩んでしまう

  何故なのか 何故なのか 何故なのか

  何故だろ   何故だろ  何故だろ

  そんなコト言い出したらキリがない

  だからオレはルパンV世さ


○ ジェット機内

 三人掛けの窓際にベルナール、そして峰不二子、通路側にはルパンが坐っている。

 スチュアーデスが紅茶とサンドウィッチを持って来る。

 ルパン、サンドウィッチを口に放り込み、紅茶をすする。そして手を峰不二子の膝に置いて、

ルパン 「どうしたい千人斬りは? 斬り方を忘れちまったんじゃないだろな」

 通路を通りがかりの男、ジェット機のちょっとした振動によろけながらルパンの紅茶に何か投げ込む。

不二子 「あなたが正式にルパンV世を襲名するまで、決行を延期したのよ」

ルパン 「正式のルパンV世の方が殺し甲斐があるってわけか」

不二子 「まあね」

ルパン 「あっははは、あっははは」

不二子 「何がおかしいのよ」

 少しむくれて、

ルパン 「この間オレに身分証明書はいらないなどとキザなコトをほざいていたのは誰だっけねえ。
      結局のところあんたは、自分の身分証明書が欲しいんじゃないか。
      正式のルパンV世が千人目だって事でな」

 峰不二子、ふくれっ顔をする。

ルパン 「うっ」

 腹のあたりを押えて立ち上がる。
 さき程の薬がきいてきたらしい。

 通路を距ててルパンの向い側にいる男、小型の通信器で何やら仲間に合図する。
 その男こそルパンシンジケートの殺し課、課長 次元大介である。

 ルパン、通路を通って、トイレの前まで行く。


○ トイレの前

ルパン 「ふふふ、ルパンV世の正式襲名か」

 トイレを開けると、何者かによって無理矢理引き摺り込まれる。

 トイレの扉が閉ざされルパンのうめき声がもれる。

ルパン 「うっ、不覚だった」


○ 機内(乗客室)

 次元、仲間から連絡を受け、立ち上り、トイレの前まで行く。


○ トイレの前

 殺し屋Aがトイレの前まで行く。

殺し屋A 「課長、手足をしばっておきました」

次元 「御苦労」

殺し屋B 「つぎはどうします」

次元 「殺さない程度に痛めつけるんだ。ついでにトランクにつめとけ。
     パリに着いたらすぐ日本の警察に送り届けてやる。ルパンシンジケートの厳しさを教えてやるんだ」

 殺し屋A、トイレの内からルパンを引っぱり出す。

 ルパン、次元を見るなり、

ルパン 「課長、オレだよ。オレ、こいつがルパンなんだ。ルパンは変装の名人なんだぜ。
      オレにルパンの変装をさせて、自分はオレの変装をしちまったんだ」

殺し屋A 「何をぶつぶつ言ってんだ、往生際の悪い奴だ」

ルパン 「黙れ!ルパン、課長、信じてくれ!
      オレの顔を指でつまんでくれないか、そうすればルパンのマスクがとれるんだ」

 その真剣さに次元、顔をつまむ、するとマスクがとれ、殺し屋Aの顔があらわれる。

次元 「あっ!」

殺し屋B 「お前!(Aに向って)」

 殺し屋Bルパンの縄をほどく。

 ルパン、殺し屋Aに向っていき、狼狽している殺し屋Aをメタメタにのしてしまう。

殺し屋B 「ヤマト・ルパンさん、お顔を拝見させて頂戴」

 と、殺し屋Aのマスクを取ろうとするが取れない。

殺し屋B 「やや」

 とそれを見守る次元ともども殺し屋Aに化けたルパンの方を見ると、
 ルパンはAのマスクを放り投げ、乗客室にもどりつつある。

次元 「やるな、ヤマトルパン!」

 殺し屋B、追おうとするが、

次元 「まあ、待て」

 と、とめる。

 何事もなかったように席に着くルパンをじっと凝視める次元。


○ 飛行場

 タラップを降りるルパン、不二子、ベルナール老。

 少し遅れて次元とその部下二人、一人は全身傷だらけで包帯だらけである。


○ ルパンシンジケート本部・入り口

 せわしく入っていくベルナール老。それに続いてルパンと不二子。


○ シンジケート本部・内部

 廊下を歩いてくる三人。

 バルナール老、ある一室の前まで来ると立ち止まる。

ベルナール 「坊ちゃま、この部屋をお使い下さい、荷物だけ放り込んで、早速、アルセーヌ様のところに参りましょう」

 ルパンは荷物を放り込むと、ベルナール老にせかされる。

不二子 「あたし、ここで待ってるわ」


○ アルセーヌの寝室

 寝台に横たわるアルセーヌ、
 傍でつき添いの医師とアル・カポネ、ボンクラV世クロード・ルパン、女中頭のヴィクトワールが見守っている。

 扉が開いてベルナール老がルパンV世をしたがえて入ってくる。

ベルナール 「アルセーヌ様、只今到着いたしました。日本からV世をお連れしました。」

 ベルナール、アルセーヌのわきに駆け寄る。

アルセーヌ 「おお、そうか、」

 力なく返事をする。

カポネ 「ふん、どこの馬の骨とも知れないような奴を連れて来おって、」

ベルナール 「何と、コトバがすぎましょうぞ!」

医師 「お二人ともおやめなさい。」

 クロードそっとアルセーヌの手を握って

クロード 「おじい様、あんな奴、ルパン家の血を統く者なんかじゃありませんよオ。見てやって下さい、あの品のない顔!」

 ヤマト・ルパン、カーッとむかっ腹を立てる。

 アルセーヌの返事はなく目を閉じたままである。

 医師、手を取って脈をみる、

医師 「アルセーヌ様は大変お疲れのようです、みなさん、おひきとり下さい。」

 医師は当然のように居残ろうとするカポネをも追い出す。


○ ルパンの部屋

 ルパンが入って来ると、峰不二子はベッドに寝そべってタバコをふかしている。

 天井にナイフが数本刺さって血が床に落ちている。

ルパン 「ねずみか、」

不二子 「そう、割かしおとなしかったんだけど、気に障ってね。」

 ルパン、天井板をこじあけて死体をひっぱり出し、廊下にほっぽり投げる。

ルパン 「世話のやけるねずみだぜ」

 扉を閉め、服の汚れを払って

ルパン 「さて、暇だな、何しよう?」


○ カポネの部屋

 次元とカポネ、何やら話をしている。

カポネ 「そうか、V世の実子の行く末は全然分からん訳だな、」

次元 「ええ、」

カポネ 「それで今日来たあの野郎の過去はどうなんだ。」

次元 「それも、いろいろ調査したんですがね、」

カポネ 「ふむ、奴はU世の実子かもしれねえし、そうじゃねえかもしれねえって訳だな、」

次元 「ええ、まあ。奴の過去らしい男が三人ばかり浮かんだんですがね、」

 次元、クレムリン三枚の写真を見せ、つぎつぎ説明する。

次元 「こいつは東京でザ・ゴールデン・バットというギャング団の隊長格の男だったんですが、
    犯行予定当日、推理小説に読み耽っていて遅刻して仲間の信頼を失い、それ以後消息を断っています。
    こいつは九州で空手をやっていた男ですが師範の女房に手を出してから行方不明、
    こいつは大阪のストリップ劇場でメークアップ係を、」

 カポネの手下、慌ててかけ込んで来る。

手下 「親分、ジャンの死体がヤマトの部屋の前に放り出してありました。」

カポネ 「もういい、次元、来るんだ。手前の口からしゃべらせてやる。」


○ ルパンの部屋

 ルパンと不二子、コトの真最中である。

 ノックする音がする。

ルパン 「どうぞ」

 再びノック、

ルパン 「どうぞと言ってるじゃないか、手前で開けて入って来いよ」

 クレムリンと次元、入って来る。

 ルパンと不二子は二人に構わずやり続けている。

 ルパン、次元をちらっと見て、

ルパン 「飛行機のなかではどうも失礼。」

 次元、ニヤッとする。

ルパン 「ところで、御用件は、カポネさん、」

カポネ 「ひとと話しをするときぐらいはやめたらどうなんだ。」

ルパン 「どうぞ話しなょ、ちゃんと聞いてるぜ。」

 カポネ、怒って出ていこうとするが、次元、それをとめる。

次元 「まあ、ちょっと待ちなよ、オレが話してやる。
    つまりな、ヤマト・ルパン、お前が本当にルパンV世かどうか確かめたいそうなんだ。」

ルパン 「本人がそう言ってるんだから、間違いねえぜ」

 カポネ、ルパンの腕をとって、

カポネ 「こっちへ来い、血液型を調べりゃ分かるんだから。」

ルパン 「血液型!」

 ルパン、飛び起きる。

不二子 「イヤーン!」


○ ある一室

 ルパン、カポネ、クロード、次元の四人がいる。

 カポネ、メスを受け皿を手にして、

カポネ 「さあ、行こうか、」

 ルパン、少し躊躇を見せる。

クロード 「どうしたの?いやとは言わせないよ。キミが本当にお父さまルパンU世の子どもであるならば………。」

ルパン 「いや、そのな、誰もイヤだなんて言ってねえじゃねえか、オレは正真正銘のルパンV世さ、
     ちょっとそれ貸せ、自分でやらあ、他人にやられるのはどうも気色が悪くていけねえ、」

 ルパン、自分で指を切って、受け皿にたらす、

ルパン 「ほらよ、」

 カポネに渡す。

カポネ 「さーてと」

 試験管に移し、他の薬品を注ぐ準備をする。

カポネ 「お前の父親、もしお前が息子だったらの話しだが、
     ルパンU世様はA型、母親のカテリーナ様もA型、したがってお前はA型でなければならない訳だが…………」

 カポネ、反応を調べ終わると、ちょっと顔色を厳しくするが、すぐ平常に戻して、クロードに目つきで合図する。

 クロード、うなづく。

ルパン 「(独白)血液型でくるとは気がつかなかったぜ。まさかオレがルパンV世でないなんて事があるはずないけど。
      そうよ、正式にルパン帝国を継ごうというこのオレが。」

ルパン 「どうなんだ。」

カポネ 「まあ、あわてるな。」


○ 東京の街

 今日も活動する大都会、

 行き交う車の群れ、

 そして人々の雑踏、

 その中に銭形警部が一人ポツネンと人々の流れから調子を外したように歩いている。

銭形 「(独白)きょうも雲空だ。いやな雲り空だ。街の喧噪と淫靡に拡大した人々の欲望がかもし出す不吉なきざしだ。
    光化学スモッグや公害による大気汚染のせいばかりとはいえまい。日常という圧倒的に巨大な観念の前に、
    人間はいわば日に日に死につつ生きていくという背理を余儀なく背負わされているのだ。
    そんな街々を縦にスッパリと、しかも突如として鋭敏に切り裂き、情況の鮮やかな切断面を見せてくれたルパンだったが、
    一体、あいつは今頃、何処で何をしているのだろう。ヤシマゲッコウの奇跡としか言いようのない強奪のあと
    早くも時日は矢のようにすぎ去ってしまった。あのあとルパンの残した足跡と言えば千人斬りの女の九百九十九人目の
    犯行があった日、新任の伴刑事に化けて出現しただけだった。あいつは何を目論でいるのだろうか、
    あの女とのつながりは、そしてあいつは一体どういうつもりであの現場へ出現したのだろうか。
    宿敵銭形平太へのあいさつ。ただそれだけであったのだろうか。」

 銭形、街角でビラ配りの少年にぶつかる。

銭形 「あぶない、………気をつけな、」

 少年、申し訳なさそうに持っていたビラの一枚を差し出す。

銭形 「んーーー?」

 ビラには次のように書かれている。

 - あなたもパリにいらっしゃいませんか。
 ………フランス料理、新装開店、ルパンV世・・・・・・・・・

 銭形、いきなり少年の胸ぐらを掴み、

銭形 「おい!このビラ誰に頼まれた?」

 少年、呆気にとられているが、やがて口を開いて

少年 「ル、ルパン亭のマスター、モンキーさんに、」

銭形 「嘘つけ、ルパン亭なんてあるはずない、」

少年 「ほ、ほんとですよ、」

 銭形、少年の胸ぐらを放し、

銭形 「悪かった、大人気なく逆上したりして、
    (独白風に)何てことだ、ルパンが今の様を見たら笑い転げたに違いない、
    ルパンがオレによこしたキザな挑戦状だというのに、この取り乱し様は何たるザマだ、………悪かった、ゴメンよ。」

 銭形、足早に歩き、車道の方を歩き手を上げてタクシーを止めようとする。

 一台のタクシーが止まり、銭形はそれに乗り込む。

 そこはフランス料理店、ルパン三世亭の真前である。
 新装開店、ルパン三世のタテ看板があり、店のマスターモンキー氏が店の前を掃除している最中である。

 勿論、銭形は車道の方ばかり見ていたのでそんな事には気づかず、車にせわしく乗り込む。


○ 車の中

 銭形、緊張した面持ちで運転手に告げる。

銭形 「桜田門」

 銭形、「銭形警部の唄」の後半を歌う、


   -「お前はまるで英雄気取り

   オレたちはまた負けたと人々に指さされふざけやがって

   でも、もうこれでおしまいだぞルパン

   オレはどんなに変装しようとお前を見分けるぞ

   もうこれでおしまいだぞルパン

   オレはお前が今度何やるかちゃんとお見通しだぞ。

   もうこれでおしまいだぞルパン

   オレはお前を絶対ひっとらえてやる。

   絶対ひっとらえ…………ん?」

 突如として何かに思い当ったように歌を中断し、運転手の肩をポンポンとたたき、ふり向き様、運転手の顔をつまむ。

運転手 「いてー!」

銭形 「ちがったか。」

 運転手・車を急停車させる。

運転手 「あぶねえじゃねえか、てめえ、何すんだよ、この野郎、表へ出ろよ、ただじゃすまねえよ、この野郎、」

銭形 「悪かった?悪かったで済むんならオマワリさんはいらねえってんだ。表へ出ろ!」

 運転手、自分は外へ出て、中にいる銭形につかみかかり、外へ引きずり出そうとする。

銭形 「人違いだったんだ、オレはこういう者だ。」

 と警察手帳を見せる。

銭形 「ルパンV世と間違えたんだ。」

 銭形、オレは何てドジなんだろ、というようななさけない顔をする。


○ 警視庁

 デスクに坐って頬杖をついている銭形。

 部下がやって来る。

部下 「警部!フランス警察と連絡がつきました。やはりルパンはフランスに飛んだ形跡です」

銭形 「そうか」

 銭形、顔を輝かす。


○ 桜田門

 スーツケースを下げた銭形、タクシーを止めて乗り込む。

銭形 「羽田空港」


○ アルセーヌの部屋

 医師、アルセーヌの脈をはかり、聴診器をあてて大袈裟な診断をしているが

医師 「まもなく御臨終です。みなさんをお集め下さい」

 女中頭のヴィクトワールに言う


○ 廊下

 ヴィクトワールがせわしく駆け回る。

ヴィクトワール 「みなさん、集って下さい、アルセーヌ様が御臨終です」


○ アルセーヌの部屋

 全員集っているが、しーんと静まり返っている。

 医師、大袈裟に診察しているが、

医師 「まだお気は確かなようです。最後のお別かれを………」

 クロード、スックと立ち上る。勿論、カポネに促されてのことだ。

クロード 「みなさん、静かに聞いてちょうだい。初代アルセーヌなきあとのルパン帝国は
      このわたし、三代目のクロードが受け継ぎます。なぜならば………」

 反カポネ派ガヤガヤと騒ぎ出す。

クロード 「なぜならば………」

 カポネ、たまりかねて

カポネ 「うるせえ!黙れ!つまり、こいつはニセ者なんだよ。
     ルパン三世なんかじゃありゃしねえんだ。ルパン家の血なんかこれっぽっちも流れちゃいねえんだ。
     血液検査の結果分かったんだよ」

 反カポネ派、まだガヤガヤ言っているがベルナール老、みんなを制すようにして立ち上がり、

ベルナール老 「静かに!みんな聞いてくれ。みんな、サツじゃあるめえし、血液型なんぞ信用できると思うか。
          突然変異というものだってある。それより争えないのが血の絡がりによって現れる
          顔つきとか物腰とか気立てとかそういうもんじゃないのかねえ。
          そしてそれを見抜くのは科学なんかじゃねえ。ここだ(と自分の胸を叩き)
          人間には科学より確かな直感というものがる。心意気だ。わしは一目見たときに分った。
          この方こそルパンV世に間違いないと。
          どうだ、ヤマト・ルパン様は若い頃のアルセーヌ様にそっくりじゃろうが」

 ルパンはカポネに血液型のことを言われたときは少しうろたえたが、すぐ目を閉じて気を鎮める。

ルパン 「(独白)ベルナールじいさん、ありがとよ、あとは自分でやる」

 ルパン、窓の外へ何かを投げる。

 ものすごい音がし、みんながそれに気を取られている間に、
 アルセーヌの口の中にマイクロスピーカーを隠す。

ルパン 「(独白)ごめんよ、じいさん」

 そして自分の方には仕組んだマイクロマイクを通して人に気づかれないようにしゃべると、
 アルセーヌの口から拡大されて聞こえてくる。

アルセーヌ 「(実はヤマトがしゃべっている)そうだ、ベルナールの言う通りだ。
        血液型など問題じゃない」

 そして、つづいてマイクロスピーカーを仕組んだショックによってであろうか
 アルセーヌは自分でしゃべり出すので、ルパン、びっくりする。

アルセーヌ 「いいか、よく聞け」

ルパン 「あれれ?」

アルセーヌ 「これからしゃべることがわしの遺言じゃ。
        いいか、わしが生涯かけて盗みきれなかったものを盗んだものがルパン帝国を継ぐのだ
        ……ガックリ」

 ガックリとなる。

医師 「最後の御臨終です」


○ カポネの部屋

 カポネとクロード、別々に何か考え事をしている。

クロード 「おじ様、おじい様が盗みきれなかったものって一体何なのでしょう」

 カポネ、いら立って

カポネ 「うるさい!黙って自分で考えろ、オレだって考えてるんだ」

 そして二人とも様々なポーズを取って考え込む。

 以下クロードの歌となる。


   ---おじいさんが盗みきれなかったものって何だろう、

   おじいさんは何だって盗んだぜ、

   金だって宝石だって

   キャラメルだってチョコレートだって

   太陽だって星だって

   フロおけだってカンおけだって

   ひとの女房だってチョロイもんさ、

   おじいさんが盗みきれなかったものって何だろう、

   おじいさんは何だって盗んだぜ

   バスだって飛行機だって

   ビー玉だってケン玉だって

   学校だって会社だって

   電信柱だって煙突だって、

   何よりもひとの心を盗んだのさ、

   善意と信仰

   おそれとおののき

   憎悪と殺意

   だっておじいさんはアルセーヌ・ルパンだもん。


 画面は、アルセーヌ・ルパンに関するイメージで構成する。

クロード 「おじ様、もうめんどくさいからヤマト・ルパンたち反主流派の主要メンバーを
      片っ端から消してっちゃったらどう?」

カポネ 「それはオレも考えていたことだ」

 その時、
 ドタドタとカポネの部下たちが全員、手に手にアルセーヌ・ルパンに関する資料を持って入ってくる。

部下1 「カポネさま、資料集めてまいりました」

カポネ 「そうか、御苦労、じゃあ、早速コンピューターにかけてみよう」

 カポネ、資料を集めて、その部屋に置いてある大きなコンピューターにつぎつぎと入れる。

 コンピューター、悪戦苦闘する。

コンピューター 「ヒー、ヒー、シーハー、シーハー、ヒー、ヒー、シーハー、シーハー…………」

 コンピューター、やっとのことで一枚の紙切れを出す。

 カポネ、それを取り出し、クロードのそばに寄って読むと、紙切れには『オノレジシン』と書かれてある。

カポネ 「何だこりゃ」

クロード 「コンピューターの調子がおかしいのよォ。バッカみたい!」

 そう言い終わるか終わらないうちにコンピューターは大爆発を起こし、部屋はメチャクチャとなり、
 みんな天井や壁の下敷きとなり、爆風でやけどして顔はまっ黒であり、
 全身傷だらけの、ホウ帯とバンソウコウだらけとなる。

 カポネ、起き上って、

カポネ 「何たることだ」

 クロードも起き上って

クロード 「おじ様、かくなる上は、やっぱり第二案、マル秘暗殺指令にしましょうよ、早く……」

カポネ 「そうだな」

 二人とも泣きそうな顔である。


○ ベルナール老の部屋

 反カポネ派、一同に会している。

 ヤマト・ルパンしょぼくれている。

ヴィクトワール 「坊ちゃま、元気をお出しください。血液型など問題じゃありません」

ルパン 「問題じゃないと言ったところで、突然変異なんて、そうやたらに起こるもんじゃないぜ」

ベルナール 「私が保証します。あなたはルパン家の血筋をひいているに間違いありません。
        若い頃のアルセーヌ様に瓜二つです」

ルパン 「じいさん。そう言ってもらえると本当にうれしいけどさあ」

ヴィクトワール 「坊ちゃま、日本へ渡る前のフランスでの事は全然、御記憶ありませんか?」

ルパン 「ああ、全然ない」

ヴィクトワール 「あのお優しいお母様のことも?」

ルパン 「ああ」

ヴィクトワール 「ちょっと軽く目を閉じて思い起こしてごらんなさいな、無理に思い起こそうとせずに。
          そう、まず最初はあの香ぐわしい匂いから。
          ほら、ほのかにお母さまの匂いとぬくもりが感じられませんか?
          それからあの耳を突ん刺くような爆撃の音。
          お母さまはまだ小さかったあなたの手を引いて、またある時は抱きかかえて、
          あの爆撃下のパリの街を逃げ歩いたのですよ。
          幼かった坊ちゃまは爆音や戦闘機の音におびえ、痙攣を起こすし、
          そりゃあお母さまの御苦労は大変だったのです」


○ ルパンのイメージ

 戦時下の市街、幼いルパンを連れて逃げ惑うカテリーナ(峰不二子のキャラ)
 それがほんの断片として、フラッシュカットとして挿入される。


○ ベルナールの部屋

ヴィクトワール 「思い出されましたか?坊ちゃま」

 ヴィクトワール、うれしそうに身を乗り出すようにして大きな声で言う。

ルパン 「いや、その、うん、まあ、何となく」

ヴィクトワール 「そうですか。よかった。これから段々はっきり思い出せますわ。
          機会あるごとにお母さまのことを私がお話いたします。
          あの優雅でお優しかったお母さまのことを。」

ベルナール 「そうですとも。三代目、あなたは紛れもなく
         カテリーナ様と二代目の間にできたお子なのです。

ヴィクトワール 「それはそうと、坊ちゃまのお連れの女の方は若い頃のカテリーナ様そっくりですわ」

ルパン 「えっ!」

ヴィクトワール 「そうですわ、坊ちゃまがあの方に魅かれるのも、きっとお母様の面影が
          坊ちゃまの心の奥深くに残っているからなのですわ。きっと」

ルパン 「おもしろい。本当のおふくろだったらなおおもしれえや」

 そのとき、峰不二子が入って来る。

不二子 「ルパン、カポネたちの動きが少しおかしいわ」


○ カポネの部屋

 カポネと殺し課、課長次元大介が話している。

次元 「専務、そりゃいけねえ、そんな暇に一世の遺言の通り、
    一世の盗みきれなかった仕事に全力を尽くした方がいい」

カポネ 「うるさい、言われた通りにしろ」

次元 「それにきたねえぜ。フェアプレイじゃない」

カポネ 「つべこべ抜かさず命令に従ったらどうなんだ。
     マル秘暗殺指令一六三、さあ早く実行に移すんだ」

次元 「専務、これで失礼します」

 次元、机の上に何やら放り投げて去ろうとする。

カポネ 「何だ、これは」

次元 「辞表です」

 と、そのままでようとする。

クレムリン 「表向きはシンジケートなどという近代的な名前だからと言って
        辞表一つで辞められるなどと思ったら大間違いだ」

 と言いながら次元の背へナイフを投げる。

 次元、よろける。

次元 「そうはいかないぜ」

 カポネはすぐそばのボタンを押すと床が開く。

 次元、落ちる。

 カポネ、確認するために覗くと、後からピストルを突きつけられる。

次元 「そう、そうはいかねえんだ。カポネの旦那、
    ルパンシンジケートじゃオレが一番の腕利きだってことを忘れてもらっちゃ困るな。
    一体、次元大介が辞めた後の殺し課はどうなるんだい?」

カポネ 「ふふふ、心配するには及ばないぜ、
     次元、お心遣いはうれしいが。 五ェ門殿! 入ってくれ」

 五ェ門、扉を開けて入って来る。

3ページ目へ つづく

資料館へ戻る

トップ アイコン
トップへ戻る

inserted by FC2 system