第拾七弾
劇場版 ルパン三世バビロンの黄金伝説
台本(決定稿)からみる、実際の本編との相違点



探索隊では、念願のバビロン台本を入手いたしました。
この台本は「決定稿」ですが、アフレコ時の台本とは、若干内容が異なります。
(アフレコ台本については、LPレコード・ドラマ編の特典にて参照)
まぁ、ほとんどは同じなんですけれども、
その「チョットの違い」を実際の本編と比べるのがマニアの楽しみという事で・・・
細かい台詞の違いは追及しませんが(アドリブも多かったことでしょうし…)、
ストーリー的・シーン的に異なる部分等を抜粋していきますので、楽しみながらバビロン雑学?を増やしていきましょう♪

参考:(ルパンマニア以外の方向けの解説)
「ルパン三世バビロンの黄金伝説」は、1985年夏公開の劇場用オリジナル作品。
この劇場用ルパン第3弾は押井守氏が監督する予定だったが、「虚構を盗もうとするルパン。しかしルパン本人が虚構の存在であった」という衝撃?の内容に関係者の反対の猛攻撃を受け、押井氏は監督を降り、作品はオクラ入りに。しかし劇場用新作を1985年夏に公開するという課題だけは残ってしまった為、急遽シナリオを数名に募り、「ルパン三世PART3」スタッフによって製作されたのが、この「バビロンの黄金伝説」である。
結局、選ばれたのは浦沢義雄氏の台本であったが、このシナリオ執筆中にスランプに陥り、大和屋竺氏の協力で書き上げられたのが、この台本。
バビロンの台本が、浦沢氏と大和屋氏の共同執筆になっているのは、このためである。

その1  オープニングが違う!?

始まるやいなや、オープニングクレジットという本作。実は、脚本段階では、そうではなかったことが判明。


星空

 銃声一発。

 -メインタイトル。

 流れ星。

 カメラ、パンダウンすると、ニューヨークの夜景。

 女性のヴォーカルで、マザーグースの歌「バビロンまでは何マイル?」がきこえてくる



これが、脚本段階でのバビロンバビロンのファーストシーンである。ここから、ロゼッタ登場に繋がってくる訳だ。
そして…



大劇場・前

 M・ジャクソンの巨大イルミネーション付看板が飾られている。

 その向か側の建物の屋根にテーブル・椅子を持ってやってくる酒場の客、ホステスたちとサム。

サム「はい足許に気をつけて、そこのテーブルもう少し後」

 巨大なM・ジャクソンの看板に注目する一同。

 イルミネーションの口が大きく開き、舌の先端からジャンプして出てくるバイクのルパン。

 銭形のバイク、続いて現れる。

 -クレジットタイトル、始まる。



なんと!あの「ダラけている、単調」などとマニアから酷評だった冒頭のバイクシーンは、当初オープニングクレジット用のシーンだったことが判明!
う〜ん、このままOPとして活かされていればバビロン評価に影響があったかも!?
おそらく、尺の関係や主題歌とのマッチングの関係で変更になったのでしょう。それにしても、驚きました。
オープニングクレジットはバイクのシーンをバックに、マルチアーノ・コワルスキーの登場〜会話終了まで続きます。




その2  ルパンを消す依頼!?

実際の本編と違い、銭形がイーストリバーにほうり出されて(バイクレース終了して)から、マルチアーノは登場します。


路上B

 ピカピカのキャデラックが駐っている。
 後の席に、二人の男(NYマフィアのボス、マルチアーノと彼の右腕、コワルスキー)の影

マルチアーノ「ルパンを消してくれという依頼があったそうだな?」

コワルスキー「ええ。シカゴとロスからね。間もなく奴はくたばりますよ。」

マルチアーノ「本当か?」

コワルスキー「ええ。」

 コワルスキー、細みのシガーにライターの火を点ける。

 二人の顔が暗がりに浮かぶ。

コワルスキー「明日のひるにゃハドソン河に奴の死体を浮かべてみせますよ」

マルチアーノ「ふむ。それじゃ河を見ながらひる飯を食うことにしよう」

-クレジット終る。



ルパン暗殺は、自発的なものではなく、依頼があったからだったのか!?
しかも、なんかカッコ良くない。…というか、実際の本編がカッコいい粋な台詞なので、変更されて本当によかったと思う。



その3  隠し釦(ボタン) 〜不二子

ルパン「俺が何を探しにニューヨークへやって来たのか、知ってやがるらしいな、あの婆さん-?一体何者なんだ?」

 ルパン、つまづいて床にドテッとひっくり返る。

ルパン「-!」

 銃弾のこびりついた防弾ガラスが床から五十センチ程突き出ている。

 ルパン、床の隠し釦を押してそれを引っこめる。

 壁の隠し釦をあちこちと押すルパン。

 四方からコンピューターのセットが押し出され、天井からスクリーン型のモニターが降りてくる。

 機器の間を走り回り、磁気カードをファクシミリにセットし、次々にキーボードを叩くルパン。

 「国立考古学研究所バビロニア文明セクション」

 「××大学言語学研究所・楔形文字・アッシリア文字セクション。貴方は?-」

 「××財団古代文字研究所・楔形文字科・バビロニア文字セクション……」

 等、ディスプレヤーに躍っている。

 ルパン、燭台に書かれた楔形文字の図形をそれぞれに打ちこむ。

 図形の照合、演算が始まる。

ルパン「どうだろうね、この便利なこと!アメリカ中の考古学者の研究データが、
     ぜーんぶ俺んとこの端末子に継がってたなんて、お釈迦様でも気がつくめえよ!」

 ルパン、やたらに歩き回る。

 隠し釦が踏まれる度に、壁から天井から、さまざまな仕掛けがとび出す。

 ひっくり返るソファ。

 壁から突き出るゲンコツ。

 天井から降ってくる檻。投網。

 五ェ門、その度にひらりひらりと鮮やかにかわす。

 次元、逃げ回り乍ら、

次元「むやみに歩かんでくれ、ルパン」

 △インサート。さまざまな研究機関の建物。そのデータバンクで、磁気リールが高速回転する。

 △モニターに躍る図形。

ルパン「な、何て書いてある?」

 天井から落ちてきた重しの下敷きになって、眼を回しかけているルパン。

次元「(読む)『七六年ごとに光るバベルの塔に立てよ』-何のこった?-」

五ェ門「バベルの塔とは、旧約聖書にあるあの塔のことか?」

ルパン「ムギュ(失神する)」



マルチアーノ商会ビル・表

 タイムズスクエアに立つ、超高層のビルの一つ。


同・屋上

 マンハッタンが一望出来る。

 バビロニア風のペントハウスと大理石のプール。

 プールサイドのワゴンの上で、ローストビーフを切っているシェフ。

 マルチアーノと不二子、テーブルについて冷えたシャンペンを飲み、昼食を食べている。

不二子「なんだか変よ、マルチアーノ?」

マルチアーノ「ん?」

不二子「さっきから河の方ばっかり見てるじゃない?クジラでも泳いでるの?」

マルチアーノ「いや、別に……」

 黒づくめの男たち、一列に並んでダイム硬貨を望遠鏡に入れ、河をのぞいている。

 マルチアーノ、焦々して、

マルチアーノ「(男たちに)もう良い。行け」

 男たち、去ってゆく。


 マルチアーノ、イーゼルにカンバスをのせ、黄金いろのライオン像を描いている。

 トップレスの水着で現れる不二子、プールにとびこみ泳ぎ出す。



これらは、連続して、まるまる削除されたシーン。
どうやら、バイクレース後のホテルと、その後のルパンのアジトは同一のものとして設定されていたようだ。
(本編では間取りといい屋外の雰囲気といい、同一とは思いがたいものでしたが…)
そして、脚本では既にこの時点で「燭台をバベルの塔に立てる」ということが明らかになってしまっているのもポイントか。
マルチアーノと不二子のシーンでは、本当に「河を見ながら恋人と、(スパークリング)ワインで乾杯することにしよう」を実行していることが判明。
トップレスの水着って………   水着不二子とマルチアーノのやりとりは、実際本編とほぼ同じ。




その4  マルチアーノとの格闘

不二子に変装していたルパンが正体を現してからのマルチアーノとのやりとりが、実際の本編とは多少異なる。


 シュッと音がして、不二子の肌が弾け、パット入りブラジャーをつけた毛むくじゃらのルパンが現れる。

ルパン「何てことするの?厭らしいわね!」

マルチアーノ「……?」

ルパン「私をどうしようって云うのよ?!」

マルチアーノ「うぬ!」

 マルチアーノ、ナイフを投げつけ、壁にかかった銅剣を手に、切りかかる。

 ルパン、ひょいひょいとよけながら、

ルパン「よお、色男。二代目。発掘の方はうまく行ってんのかよ?
     お前が掘り当てちまってからそっくり頂こうかとも思ったんだけどな。それじゃあんまり芸がなさすぎるだろ?」

マルチアーノ「女でだますとはな。汚ねえ手を使うじゃないか、ルパン?」

ルパン「(不二子の声になり)まあ、何が汚いって云うの?だまされる方が悪いんじゃない?」

 ルパン、ブラジャーの端をガラスケースの端に引っかけてつんのめる。

 大剣をふりかぶるマルチアーノ。

マルチアーノ「死ね!」

ルパン「あららっ-」

 シュッ-

 ルパン、小型のスプレーを吹きかける。

マルチアーノ「あ……」

 マルチアーノ、くずおれ乍ら、

マルチアーノ「ル、ルパン。ここからは出られねえぞ!」

ルパン「ウヒヒ……いいから眠んなよ」

 ルパン、極小テレコを手品のようにつまみ出して、

ルパン「お前の声なら、ちゃーんと録音しといたもんな。開けゴマ!ニヒヒ…」

マルチアーノ「う……」

ルパン「バビロンのお宝は俺が頂くぜ、マルチアーノ」

 マルチアーノ、ドッと倒れる。




その5  どうせブスしか…&あんなデブ!?


記者C「好きな色は?」

ルパン「グンジョ色!」

中略

銭形「世界○百○十○ヶ国の警察から選び抜かれた五十名の婦人警官がその美を競い合う、
    ICPO主催インターナショナル婦人警官コンテストをお楽しみに〜」

 スピーカーのスイッチを切り、

銭形「どうせブスしか集まらんのだろうて」


中略

銭形「それでは発表いたします。本年度ミスインターナショナル婦人警官は……

 高まるドラムロール

銭形「エントリーNo26、イタリア代表ミス・ラザーニャ婦警!」

 「ワァ〜」と泣き崩れるラザーニャに王冠をかぶせる銭形。

ICPO本部・長官室

キャラメール「どうしてあんなデブが選ばれるの!」



ルパンの好きな色はグンジョ色だったとは…。嫌いな食べ物は?タ〜コ。の方が、確かに面白いですな。ファンとしては。
そして、本編では宣伝バルーンでの銭形のボヤキがカットされているかわりに、
「…こちらICPOの宣伝バルーンでございます」が最初に追加されているのがポイントか。
審査結果の発表を、長官ではなく司会の銭形が引き続き行っているのも面白い。
キャラメールの「あんなデブ」発言も見逃せない?
そういえば、ラザーニアがラザーニャという名前になってるな…
他のシーンではラザーニアと書かれているので、単なる誤植でしょう。




その6  オリエント急行乗車

この台本では、

ルパン「(バナナが喉に詰まり)ヒック-さ、乗れ。」

走る列車(ベニス・シンプロン・オリエント急行)

同・食堂車A

 ルパン、ウェイターに、

ルパン「フォアグラのテリーヌと仔牛のステーキたあ豪勢だな…


と、なっている。つまりは、オリエント急行への乗車シーンは、絵コンテの段階での追加されたシーンだということが判明。
乗車シーンは音楽も良くて、銭形&婦人警官や陳・ウィリー達もカッコよく描かれていて、追加されてヨカッタです。



その7  チンジャオの手料理


同・厨房

 ラザーニア、何やら粉末をチンジャオロースの三つの皿に振りかけている。

銭形「特製の眠り薬さ。こりゃよく効く。それにしてももっときゃつめの食欲をそそるようなもんは出来んのかね、チンジャオ婦警?」

チンジャオ「私、チンジャオロースしか作れないの」

ラザーニア「あ、あ、あ……」

 ラザーニア、粉末を吸いこみ眠ってしまう。

銭形「(舌打ちして)何てこった。ま、足手まといになるよりは良いだろう」

 サランダ、やってくる。

 銭形、ワゴンに皿をのせて、

銭形「眠れ、ルパン。ぐっすりと。ナマコのように-」

 ウィリーと陳、ウ、と呻いて眼をさます。

チンジャオ「アチョーッ!」

 チンジャオ、跳び上がり、ハイヒールの先で完璧な蹴りをキメる。

 ガックリと眠るウィリーと陳。


こちらは、カットされたシーン。オリエント急行でラザーニアが姿を見せない理由が描かれている。
しっかし、言われてみればサランダが持っていった料理は確かにチンジャオロース!それをまさかチンジャオが作っていたとは!



その8  銭形の罠

台本では、マフィア襲撃の時期と、銭形とのやりとりが若干異なる。


ルパン「まあまあ、俺好みのグラマーちゃんがお揃いでお越しだもんね。そっち行っていいかしら?」

キャラメール「どうぞ、いらっしゃい」

ルパン「ほんじゃま-」

 サランダ、ワゴンを運んでくる。

 次元、ルパンの足に靴をひっかける。

 ルパン、サランダに激突し、チンジャオロースの雨がドッと二人の婦警にふりかかる。

 二人、口の中にとびこんだチンジャオロースを食べながら、

キャラメール「せっかくの衣装が台なしだわ!」

ザクスカヤ「ニェット、ハラショーよ!」

ルパン「ご免ね、ご免ね」

 キャラメールとザクスカヤ、口を動かしているうちに眠くなり、失神する。

 サランダ、ガーターから拳銃をとり出して構える。

サランダ「手を上げて!ルパン!私はICPOのサランダ婦警よ。貴方を逮捕するわ。ワッ- 」

 ルパンの弾きとばした青淑がサランダの口にとびこんでいる。

上空

 ヘリコプター、走る列車の真上にピタリとつく。

ヘリの中

 ギャング二、重機関銃の銃口を列車の屋根の赤旗につけて、ドドッと射ち始める。

 赤旗が吹っとび、屋根が吹っとんでポッカリと穴が開く。

同・食堂車A

 眠る二人の婦警を抱きかかえて逃げまわるルパンたち。

 天井の穴から、ヘリの機体がのぞく、重機の銃口が火を吐く。

 次元、サランダを片手に、マグナムで応戦する。

 重機の着弾の威力すさまじく、床板が弾けとび地上の外気がドッと吹き上がる。

同・厨房車

銭形「ムッ、ルパン!」

 眠るザクスカヤの巨体を投げつけられて倒れた銭形、手錠をかざして起き上がる。

 眠るキャラメール、サランダ、とんできて銭形を叩きのめす。

 走りよぎるルパンたち。


中略

同・前の車両

 五ェ門、斬鉄剣を一尖する。

 カシーンッ、連結器が切り離され、幌がメリメリと引きはがされる。

 銭形、とび出してきて、ガッシと連結器を掴む。

銭形「むむっ、くくっー」

 銭形、ゴムの枝に伸び、こらえ切れずに手を放して後ろの車両に叩きつけられる

銭形「糞っ、ルパン!逃げられると思うな!次の停車駅の - には、ICPOの精鋭が……あわわ」

 銭形、慌てて口をつぐむ。

ルパン「きいちゃった、きいちゃった!そんじゃその手前で列車をとめりゃいいって訳だよな。アバヨ、とっつあん!」

 食堂車Aと後ろの車両、ぐんぐん離れてゆく。



ちなみに台本では
このシーンの最後の、線路をトボトボと歩きながら涙するロゼッタのシーンが存在しない。こちらもコンテの段階で追加されたのであろう。


その9  迷路探査器

バビロンの遺跡で幻影ロゼッタと出会うに至る部分が、若干違う。


同・迷路

 ルパン、行く。

 ルパン、石ころで壁の右側を傷つけ乍ら行き、分岐点にさしかかる。

ルパン「そうかそうか。この迷路にゃ10個の分岐点があるってことだな。
     迷路なら任しといてくれ。最短時間で行きついてみせるぜ」

 ルパン、腰の装置を外し、釦の一つを押して手放す。

 装置は「迷路探査器」に早替り。

 凄い速さで迷路の中をかけ回ってゆく捜索器。

 ルパン、鋼鉄線をたどって入ってゆく。

ルパン「バビロンの宝の秘密を、事もあろうにマザーグースの歌に仕込んどくなんて、
     バビロニア人も洒落た真似をしたもんだぜ、全く - 」

 透んだ女の声で、マザーグースの歌がきこえてくる。

ルパン「ロゼッタ!居るのか?!」

 ルパン、歌声に導かれるように行く。

ルパン「幻聴だ - 」

 あたりが微光に包まれ、ルパンは熱に浮かされたように行く。

女の声「ルパン - 待っていたわ」

ルパン「おおっ - 」

 行きどまりの中心の部屋に古代バビロニアの踊り子の宝石をまとった美女が立っている。




その10 所要時間は1時間35分!

これは、タルティーニの台詞である。
有名?な唯一の台詞「いらっしゃい」は台本には存在せず、カットされたこの台詞が、台本時での彼の唯一の台詞となる。



同・抜穴出入口

 砂煙がもうもうとたちこめ吹き出している。

 獅子像といっしょに飛び出し、咳こんでへたりこむルパン。

ルパン「ああシンド!」

 ルパン、ふと顔を上げる。

 発掘溝のふちにずらりと並んで立っている人影。

声 「ルパン!とうとうみつけてくれたか?」

ルパン「あらま - 」

 コワルスキー以下、マシンガンをかまえて立っている。

マルチアーノ「秘密の入口は分っていたんだが、誰も入りテがいないので弱っていたところなんだ」

 タルティーニ、横合いから、

タルティーニ「ルパン君とやら。全く君の向こう見ずなのには恐れ入ったよ。
        いや、あんな盗掘防止の仕掛けなんぞは時間をかければ何とかなるもんだが、
        君はそれをたったの一時間三十五分で……」

マルチアーノ「もう良い。ルパン。死んだ俺の親父に替って礼を云うぜ。これで終わりだ。お前の役目は全部終わったんだ」




その11 快速艇の上

こちらは、シーン自体は存在するが、台詞が大幅にカットされているので取り上げた。
ちなみにこのシーンの少し前、チンジャオの「五ェ門、カムバーック!」は、台本には存在しなかった。


快速艇の上

不二子「あっ!」

富豪「な、何だ?!」

 マルチアーノ、コワルスキー達、艦上にずらりとマシンガンを手にして現れる。

マルチアーノ「不二子、バビロンの黄金はこれで俺の物と決まった。約束を果たして貰おうか?」

不二子「誰が貴方なんかに - 」

マルチアーノ「ふむ。俺よりはそっちの爺ぃの方が金持ちだと思っているらしいな」

 ひらりと水中に身を躍らせる不二子。

 水面を掃射するギャング達。

 不二子、小型酸素カプセルをくわえて深みへ逃れてゆく。

マルチアーノ「悪党め!」

ロゼッタ「どっちが悪党なの?今に罰が当たるよ!」

ウィリー「黙れ、婆ぁ!」

ロゼッタ「あら、何さ。(壜を振上げ)やる気?」

 潜水艦からデレックがのびてきて、木箱をガシッと掴む。

 ほくそ笑むマルチアーノ。




その12 ママァ…は!?


マルチアーノ「殺せ!殺せ!殺せ!」

 マルチアーノ、釦を押し、黄金の獅子像にとびつき、狂おしくかき抱く。


マルチアーノ「渡さんぞ!誰にも渡さんぞ!」

 マルチアーノ、すすり泣き、赤ん坊のように指をくわえる。



台本では、この程度の描写にとどまっているが、本編ではより強調され強烈なインパクトを与えている。
名セリフ? 「殺して!殺して殺して!渡さないから………ママァ」は恐らくコンテ時に生まれたのであろう。



その13 キャラが違う


同・一室

 コワルスキー、ハエ叩きを手に、一列に並んだウィリー、陳たちをねめまわす。

コワルスキー「きいたか?二代目は三度云ったぞ。殺せ、殺せ、殺せ、とな。その通りにしろ。」

ウィリー「分りやした」

コワルスキー「ジョー。何か云うことがあるか?」

 ジョーと呼ばれた男、青くなる。

ジョー「助けて下せぇ」

コワルスキー「云う事はそれ丈か?」

ジョー「助けてくれ!」

コワルスキー「二度ルパンをやり損って三度めが次元大介だ。
         奴のそば迄行きながら仕留められなかった。動くな。ケツにハエがとまってるぞ」

 コワルスキー、毒針の突き出たハエ叩きでピシリとジョーの尻を叩く。

 ズボンに滲み出る毒液。

ジョー「うっ……」

 ジョーの顔色が忽ち紫色になってゆく。

 けいれんして倒れるジョー。

 顔青ざめるウィリーと陳たち。

コワルスキー「片づけろ」

 ウィリーたち、大急ぎでジョーの死体を外へ運び出す。



………ライトなファンの方は、気づかないかもしれませんが、キャラの名前が全然違います。
ジョー → マイク ですね。それ以外は死体を片付けるシーンの有無くらいで、全く同じです。




その14 イースト・ブロードウェイ

こちらは、金塊発掘後にモンスター・バーに向かう途中のカットされた短いシーン。


イースト・ブロードウェイ

 歩いてゆくルパン、次元、五ェ門。

 ヒュン、ピシッ - 

 銃声のない狙撃弾が路上に穴を開ける。

 次元、眼にもとまらぬ抜き射ち。

 遠くのビルの上から、人影が落下する。

ルパン「マルチアーノ!きかなかったのか?俺たちは別にお前と敵対しようってんじゃねぇんだ!ドンパチはよそうぜ!」



その15 裏切らないコワルスキー


同・地底博物館

 カプセルエレベーターをとび出したルパン、あっと立ちどまる。

 黄金の獅子像にふんぞり返っているマルチアーノ。

 その下で縛り上げられた不二子の頬に拳銃を突きつけたコワルスキーとその部下が立っている。

ルパン「不二子!」

不二子「ルパン!ご免ね」

マルチアーノ「武器を捨てろ」

ルパン「こいつが見えねえのか?」

 ルパン、掌の中の小箱をかざす。

ルパン「ちょいと握りゃ、百米四方が吹っとぶって強力な爆弾だぜ」

コワルスキー「お前のやり口はよく分ってるんだ。コケ脅しはやめろ。
         最愛の者を手にかけるなんて真似は絶対にしねえはずだろう?」

 ルパン、ニヤリと笑い、拳銃と小箱を捨てる。

コワルスキー「お前の額に、何かとまってるようだぜ、ルパン?」

 コワルスキー、ハエ叩きを取出し、ゆっくりと近づく。

ルパン「これか?」

 ルパン、額に手をやる。

 ダイヤモンドが光っている。

ルパン「第三の眼だ。俺にゃ何もかも見えるぜ。間違いなし。お前は地獄行きだ」

コワルスキー「(怯えて)何だと?」

 一瞬の隙をとらえて、ダイヤモンドで子分の拳銃を弾きとばし、逆襲するルパン、不二子をかばって果敢に斗う。

 が、追いつめられる。

マルチアーノ「面白い所へ案内しよう、ルパン。この世の見収めにな」

同・地底の処刑所

 奈落の底に、轟々と渦巻いている激流。

 不二子と背中合せに吊り下げられているルパン。

マルチアーノ「マンハッタンの岩盤の底には真っ暗な河が流れているんだ。
         お前たちも、ここで処刑された虫ケラどもと何処かで落ち合うがいい」

 コワルスキー、ロープを切る。

ルパン「(叫ぶ)わあああッ!」

 落ちてゆく。



これで、コワルスキーのまともな出番は終わりとなる。そう。決定稿の段階では、コワルスキーがマルチアーノを裏切ることなく終わるのだ。



その16 動くレリーフ

コワルスキーに落とされたルパンと不二子が、バベルの塔から脱出する際の、カットされたシーン。


流されてゆくルパン

ルパン「不二子ォ〜!」

 ルパン、ふと黄金の壁を見、サッと手を眼の前にかざす。

壁に沿って彫られたレリーフが、スリットを通した形となり、まるで駒落としの映画のように動き出す。

ルパン「うわーッ、何んだこりゃ?!」

動くレリーフ

 「人」がザンゲしている。

 司祭が「神」に伺いを立てる。

 「神」が腕を輪にする。

 天上からパンが落ちてくる。

 別の「人」がザンゲしている。

 司祭が「神」に伺いを立てる。

 「神」が腕を×にする。

 天上から石が落ちてくる。

ルパンの声「うわー、下らねえの!」

流されてゆくルパン

 激流が漏斗の底で激しく渦巻き、人骨がガラガラと音をたてて踊っている。

 ルパン、顔色をかえる。

不二子の声「ルパーン!」

 ビュッ-

熊手が上へ飛んでゆく。



これは、劇場公開時の流行から考えると、「オレたちひょうきん族」の懺悔のコーナーに似せたネタだと思われる。
ルパンの言うとおり、とても下らないので、カットされて良かったと思う(笑)




その17 陳、お前が…(笑)


マルチアーノ商会・地底博物館

 陳、ルパンの捨てた小箱を拾う。

陳「何だ、これ?」

 マルチアーノ、絶叫する。

陳「えっ?!」

 陳、握りしめる。

 マルチアーノとコワルスキーの顔が、まっ白になってゆく。

同・外景

 大爆発。

 ビル全体が序々に崩れてゆき、やがて猛烈な土煙があたりを包む。



なんと!マルチアーノとコワルスキーを倒したのは、何も考えていない陳だった!
なんかあっけなくて、嫌だな、これは……。変更されて、本当によかった。




その18 ラストシーンが…!?

細かなセリフの違いも含めて、実際の本編とは結構違います。
バベルの塔の浮上からエンドマークまで、じっくりとお読み下さい。



夜空

 ハレー彗星、宙天に大きく尾を引いて現れる。

マディソン・スクエア・ガーデン・表

 深夜。

 人通りが絶えている。

 ルパンと不二子、ハレー彗星を仰ぎ見ている。

 次元と五ェ門、黙って現れる。

 屋上に、ピカリと光がさす。

ルパン「ん?!」

同・屋上

 ロゼッタ、燭台をかかげて立っている。

 燭台の玉が次第に輝きを強め、稲妻が宙天に高く昇ってゆく。

 ハレー彗星の核から、UFOが姿を現わし、近づいてくる。

 燭台の稲妻、UFOと継がる。

路上

 まばゆい光の中で、マディソンスクエアガーデンの建物が崩れ倒れてゆき、地中から、巨大なバベルの塔がせり上がってくる。

 ルパンたち、呆気にとられて見上げている。

不二子「神さまって、宇宙人のことだったのね!」

ルパン「ああ!糞ったれの、宇宙人よ!」

五ェ門「絶景かな」

ルパン「ンン、糞!もう黙ってられねえ!」

 ルパン、走り出す。

次元「よせ!ルパン!」

マンハッタン島

 国連ビルとエンパイアステートビルを背景に、せり上がってくる黄金のバベルの塔の威容。

 その上に立って、燭台を捧げ持っているロゼッタ。

リバティー島

「自由の女神」、後ろを振返り、思わずトーチを落とす。

バベルの塔

 ドッ、ドッと土塊を浮き上がらせながら、バベルの塔が逆さまに持ち上がってゆく。

ルパン「待てー!」

 ルパン、土塊から土塊へ、とびつきよじ昇ってゆく。

 次元と五ェ門と不二子、同様に続く。

 まばゆい光の中 - ルパン、塔の基部底部に手をかけ、えいとよじ昇る。

 UFOの船底とバベルの塔は電磁的に継がり、盛んに火花を発している。

 ロゼッタ、神々しく若返ってゆきながら、にこやかに微笑んでいる。


ロゼッタ「有難う。ルパン、私は宇宙人なの。女神と呼ぶ人もいたわ。
      私は見失ったバベルの塔を探すために地球へ送られたのよ。何て永い時間だったろう」

ルパン「俺にこいつを探させたんだな?!」

ロゼッタ「そうよ。ルパン。
     アレクサンダー大王にも、ナポレオンにも、ヒットラーにも出来なかった事を、貴方はしてくれたの。
     有難う。愛しているわ、ルパン」

ルパン「うるせぇ!こいつは俺のもんだ。お前達になんか渡さねぇぞ!」

ロゼッタ「(微笑して)駄目。私たちには手向えないわ」

 ルパン、激しい磁気に抗って、前進する。

 ロゼッタ、微笑して浮上し、UFOの船底に呑みこまれてゆく。

 宙空に浮かんでいる燭台。

次元「いけねぇ!とんでもない高さだぜ、ルパン!」

 エンパイヤステートビル、よぎってゆく。

 五ェ門、殺気をみなぎらせ、

五ェ門「推参なり、宇宙人!」

 五ェ門、身構える。


 ルパン、横合いから斬鉄剣をひっこ抜き、えいと跳躍する。

 シュバッ - 。

 白光の中で両断される燭台。

 とたん、ぐらりと傾く塔。

 バリバリと電磁的エネルギーの嵐がさか巻き、一同は空中にはねとばされそうになる。

 ギギッ - 足許の金塊に亀裂が走っている。

 金塊はもろく崩れ始め、ひび割れて端からぽろぽろとこぼれ落ちる。

ルパン「うわーッ!」

 塔ぜんたいが壊れ、分解し、落下してゆく。

 UFO、彗星の尾の中へ吸いこまれる。

 落ちてゆく四人。

 ふいに、彗星の尾から大量の流星群が雨のように降り注ぎ始める。

 宙空で四人は手を継ぐ。

 それぞれの背からパラシュートが開く。

 壊れ、崩れ、光り輝きながら、海上に落ちてゆく黄金のバベルの塔。

 やがてゆっくりと巨大な水柱が上がってゆく。

 四人はゆっくりと降下する。

 ルパン、不二子をかき抱く。

 二人はキッスする。

 ルパンの足をムズと掴む手。

銭形「こら、ルパン!」

 銭形、セスナで降下していた - 。

ルパン「とっつあん- 」


 クレジット、始まる。

 素早く懐から玉スダレを出し、柳に投げる銭形。

 玉スダレの最端に取り付けられている回転スパナ。

 瞬間、顔を亀のように体に沈めるルパン。

 逆回転して戻るスパナ。

 玉スダレが戻って来て銭形の頭に当る。


 逃げるルパン。

 素早く懐から缶切り付き缶詰を出し、ルパンの前方に投げる銭形。

 停止するルパン。

 リモコンを操作する銭形。

 リモートコントロールで缶のフタを開ける缶切り。

 パカッと開いた缶詰から飛び出す有刺鉄線。

 慌てて空中を戻るルパン。

 ルパンを襲う有刺鉄線。

 銭形を盾にして防ぐルパン。

 銭形にからむ有刺鉄線。

 悲鳴を上げる銭形。

ルパン「とっつあん、達者でなーッ!」

下界

 キャラ・メール、ザクスカヤ、サランダ、チンジャオ、ラザーニアの五婦警、
 いっせいに手錠を取出し、挑発的に微笑して男たちを待受ける。


 - エンドマーク


バビロン決定稿を読んでみて〜あらためてバビロンについて思ったこと (Typer)
 面白かったです。趣深いという意味で。
私はご存知の通り、大のバビロンファンですが、正直この台本で「自分の好きなバビロン」をさほど感じることが出来ませんでした。
PC88版バビロンの時にも同じような事を書きましたが、
やはり「バビロンの黄金伝説」の魅力はアクションシーンであり、青木悠三さんのデザインするキャラクターが動き、
そして山田康雄さん達の声、大野雄二さんの音楽を入れた、「アニメーションである」ということが大前提になるのだと思います。
絵コンテスタッフ、そして監督の手が加わった85年公開の「バビロンの黄金伝説」のストーリーは、
この決定稿よりも面白いものになったと、きっと、これを読んだルパンファンの皆さんも思っていることでしょう。
あらためて、アニメーションというものの絵コンテの重要性を感じました。

 押井ルパンお蔵入りの尻拭いのような形で短期間で制作された「バビロンの黄金伝説」。
数年前まではルパンファンから批判的な声ばかりを聞いていたような気がしますが、
公開から20年以上経った今見ても、娯楽作品としての魅力は色褪せていないと思います。
もし、バビロン未見のルパンファンの方をご存知でしたら、是非とも勧めてみて下さい。
きっと、アニメーション本来の面白さを再確認できる……と思います。
思想の押し付けや、不可解なものばかりが、名作ではないのですから。

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