第拾三弾
未放映作品「ルパン8世」台本
「甦みがえれベネツィア」全文公開!

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「甦みがえれベネツィア」脚本/高階 航 監督/りん・たろう

20 マダム・マルコ邸、庭
マダム・マルコと不二子が模型ロケットを見ている。

マダム「この実物を見たら、あなた、きっと腰を抜かすわよ。20メートルはあるんだから」
不二子「凄いこと!」
マダム「だって、大きくしないと何が出てくるかわからないでしょう?
黄金の象かもしれないし、駱駝かもしれないし、ともかく、財宝ならなんでも積める筈よ」
不二子「ロケットが飛ばなかったりして」
マダム「財宝で重すぎて?」
不二子「そう」

二人が大笑いする。
マダム、リモコンのボタンを押す。
模型ロボットが上昇して行く。

不二子「マダム、財宝のありかは?」
マダム「ドゥカーレ宮殿の大天井「ベネツィアの礼讃」に隠されてるわ、あの絵が海水に触れると、地図が浮き出すという仕掛けよ」

ニコリとなる不二子。

21 浮ぶ大型クルーザー
マダム・マルコと不二子が水底を覗き込んでいる。
ドゥカーレ宮殿の屋根がわずかに水中から顔を出している。
と、部下が甲板でテーブルをつくっている。

部下「マダム、テーブルが出来ましてございます。
マダム「有難う」

22 水中・ドゥカーレ宮殿の天井
絵が海中に没している。
「ベネツィアの礼讃」が次第に消えていく。
と、それに変って、浮き出して来る宝のありかをしるした地図。
アクアラングを背負ったトマ・ポーロが水中ポラロイド・カメラのフラッシュを焚く。

23 浮ぶ大型クルーザー
トマが水中から昇ってくる。

トマ「貴重な芸術品が消えかけとる。海水の吸み出しを急がせろ!」
部下「ハッ」

いそぎ去って行く部下。
トマ、テーブルに坐りポラロイド・カメラのフィルムを引き抜く。
マダム・マルコと不二子が見ている。

24 同・コックピット
部下、船長のポケットに札束を放り込む。
ベリッ!と変装を剥ぐルパン。

ルパン「アリベデルチ!」
船長「チャオ!」

ルパン、ドボンと海に飛び込んで行く。

25 同・甲板
マダム・マルコ、トマ、不二子がポラロイド写真を見ている。
 − そのテーブルの下に盗聴機がある。

トマ「姉さん、財宝はもうこっちのものだ」
マダム「場所はイランのようね」
トマ「うむ」

写真に克明な地図が写っている。

不二子「案外、近いじゃないの」
マダム「ホント、助かったわ」

ニタリとなるトマ。

26 ルパン衛星・中
次元、盗聴している。
 − 瞑想スタイルの五ェ門。

トマの声「ケルマンから東へ二百キロ、バムの町にベネツィアの財宝が眠っている、
陸路より、ペルシャ湾から入った方がよさそうだ」

ルパン、入ってくる。

ルパン「場所さえ聞けば、こっちのもんさ」
次元「バムだかガムだか………どっかに聞いたことがある名前だ」

眼をあく五ェ門。

五ェ門「東方見聞録によると、バムの都はバーマンシャーという王様が治めていたとある」
次元「学があるじゃねえか、五ェ門」
五ェ門「事のついでに申せば、アレクサンダー大王に滅ぼされ、廃墟であったとマルコ・ポーロは書きしるしているが………」
ルパン「てなことにしておかねえと偉いことさ、バムの都をつくったのはマルコ・ポーロだ」
次元「廃墟なら、宝を探しに行く奴もいねえからな」
ルパン「そう云うこった」

27 ペルシャ湾
巨大な三艇のモータークルーザーが来る。
バカッと口を開ける船体。
と、中からロケットを積んだ水陸両用車が現われる。

28 同・砂漠の海辺
水陸両用車のキャラバンがロケットを引いて砂漠の道を行く。

29 砂漠
発射台にゆっくりとロケットが立つ。

30 バムの都
魔法によって永い眠りにおちたような死の町。
砂漠の斜面に横たわっている。
頑丈な砂の城壁に守られ、赤ちゃけた砂の城は斜面のてっぺんにある。
その下に永い眠りにおちた砂の町並みがおさまっている。
マダム・マルコ、トマ、不二子が見上げている。

不二子「どんな財宝が眠っているのかしら?」
マダム「わくわくするわね」
トマ「すぐに見つけてやる」

部下たち、四方に探知アンテナを立てている。

31 天幕
あらゆる探知機材が持ち込まれている。
マダム・マルコ、トマ、不二子が陣取る。
部下が飛んで来る。

部下「社長、財宝探知アンテナの設置が完了致しました」
トマ「うん。22世紀の科学力を持ってすれば財宝探しなど、何程のこともない」

あちこちの電源スイッチを入れる。

トマ「さて、財宝はダイヤモンドかな?」
ボタンを押す。
 − スクリーンに何の反応もない。

トマ「ルビーかな?」
ボタンを押す。
 − 反応がない。

トマ「金かな?」
ボタンを押す。
パッとスクリーンいっぱいに城の透視図が映る。
その骨組み、王座、守護神が映る。

トマ「あった!これだ!」

マダム・マルコと不二子が驚きの声をあげる。

マダム「金だわ!」
不二子「凄いじゃないの!?」

32 城の中
マダム・マルコ、トマ、不二子が来る。
厚い砂の壁に囲まれた四角な空間。
吹き抜けの天井。
他には何もない。
3人が見上げている。

不二子「黄金は壁の中って訳ね?」
トマ「そうだ。この城を壊せばいい」

部下達がダイナマイトを仕掛け始める。

33 天幕
トマ、ダイナマイトの爆破装置を持っている。
 − マダムと不二子。
部下が来る。

部下「完了しました」

トマ、鷹揚に頷く。

トマ「ダイナマイトの爆破で、城の壁が一瞬にして崩れ落ちる、黄金の骨組みだけが残るって訳だ、ま、ごらんあれ、ほれ!」

爆破装置のボタンを押す。

34 城・全景
ドォーン!!
白煙と砂ぼこりにつつまれる。
 − 壊れもしない。

35 天幕
3人、愕然としている。

トマ「なんてこった………」
不二子「こんな乾いた土地に何千年と眠っていたんだもの、そんなに簡単に壊れる訳がないわよ」
トマ「うーむ、ベネツィアからブルトーザーを持って来させねば………」
マダム「すぐに掘り出せる方法がある筈だわ、だって、うちのご先祖様は、この財宝を取りに来るのを知っていたんだから」
不二子「そうよ、絶対そうよ!」
マダム「トマ、明日までに考えなさい、この計画を立てたのはお前じゃないの!」
トマ「………」

36 砂漠のオアシス
ルパン、次元、五ェ門がアンテナを立て盗聴している。

五ェ門「砂上の楼閣になにを手間取っておるのか?」
次元「お前が行って斬っちまえばいいのさ」
ルパン「いや、なんたってかの有名なマルコ・ポーロさんが財宝を隠したんだ、あの連中が云うように、何かいい方法がきっとあるさ」
次元「それなら、なにかしら書き残したものぐらいある筈じゃねえか」
ルパン「おい、五ェ門、東方見聞録になんか書いてねえか」

五ェ門、懐中から本を出しめくってみる。

37 砂漠にそそり立つロケット
その先端の操縦室からマダム・マルコ、不二子が双眼鏡でオアシスを覗いている。

マダム「ルパンが来ていてよ」

不二子、ニコリと笑う。

38 オアシス
五ェ門、東方見聞録を読んでいる。

五ェ門「バムの民の神は水なり、水を神と奉り、その聖なる水、バムのオアシアに祭り給える」
次元「てえと、そのオアシスは此所か?」
五ェ門「らしい」

と、ルパンが岸の大きな石のすみに、小さな渦を巻いているのを見ている。
ルパン、葉ッぱをむしって、その渦に投げる。
クルクルと渦に吸いこまれて行く葉ッぱ。次元と五ェ門も来て見ている。
!と三人が顔を見る。

ルパン「この水はどっかに通じているらしいぜ」

39 バムの都・城の裏手
そこは絶壁になっている。
ルパン、次元、五ェ門が現われる。
ポトン!と絶壁の岩から雫が落ちる。
その雫は、途中の突き出た岩に当り、うまい具合に飛び散り、空中で蒸発してしまう。
見上げているルパンと次元と五ェ門。

40 オアシス(夜)
五ェ門、居合う。
キラッ!と月に光る斬鉄剣。
岩が真っ二つになり、オアシスの水がどっと流れ出して行く。

41 バムの都・城の裏手(夜)
絶壁の小岩が飛んだ。
水が吹き出る。

42 城の屋根
絶壁から吹き出た水が落ちて滲みて行く。

43 トマの天幕
トマ、高鼾で寝ている。

44 城の屋根(夜)
水が滲みてガサッと崩れ落ちる。

45 不二子たちの天幕(朝)
不二子、マダム・マルコが眼をさまし、妙な顔になる。
チョロチョロと水の音が聞える。

マダム「…なんの音かしら?」
不二子「水よ、水の音じゃない!?」
パッと外に飛び出す二人。

46 同・表
あッ!と二人が驚きの声をあげる。
 − バムの都は跡形もなく消えている。
斜面から流れる一筋の小川。
城跡から物凄い輝き。
二人、必死に走る。

47 城の跡
黄金の骨組みがそびえ立っている。
玉座の甲冑をつけた王を守る駱駝の守護神がニ体。
その何もかもが朝日を浴びて燦然と輝いている。
マダム・マルコと不二子が狂喜する。
マダム「財宝だわ!財宝よ!これが、これがベネツィアの財宝よ!」
不二子「なンて綺麗なの!?眼がくらみそうよ!?」
マダム「ああ、素晴らしい!」

二人が空に向けて拳銃を乱射する。

48 トマの天幕・表
転げ出るトマ。

49 城の跡
トマ、ぶっ飛んで来る。
マダム・マルコと不二子が抱き合って踊っている。
トマ、もっともらしい顔で財宝に眼をやる。
と、後方の絶壁を見上げて、頷き、ゆっくりと振り返る。

トマ「どうだ、姉さん?昨夜寝る前にオアシスの水を流しておいたのだ。少しはこの俺を尊敬する気になったかな?」
マダム「えっ?…え、ええ、あなたって昔からホントにお利巧さんだったわ」

キスの雨を降らす。

50 ロケットの中
玉座、駱駝の守護神などの財宝が積み込まれている。
ゆっくりと閉じられる扉。

51 天幕・中
マダム・マルコ、不二子、トマがシャンパンで乾杯している。
カテリーナ「では、発射!」
ボタンを押す。

52 ロケット
轟然と上昇して行く。

53 宇宙
財宝ロケットが来る。

54 ロケットの中
玉座に鎮座していた黄金の甲冑をつけた王が、ふわりと浮いて、ころんと逆さになる。
スポッと甲が取れ、ルパンの顔になる。

ルパン「おーい、次元、助けてくれ!」

二体の駱駝のこぶがパカッと開いて、泳ぎ出る次元と五ェ門。

次元「手前のことは手前でやりな、こっちは忙しいンだ」
オートジァィロに泳ぎつく次元。
計器のボタンを押す。
と、テレビにアドリア海の地図が現われ、着水点が映る。
逆さのルパン。

ルパン「どうなってる?」
次元「地球を二十五周して、六日後にアドリア海へ着水だとさ」
ルパン「今日のうちに帰っちまおうや」
五ェ門「ゲフ…酔い止めの薬はござらぬか?」
次元「薬屋は足の下だ」

その時、物凄い音が響く。

声「こちらは宇宙警察、銭形であーる!そのロケット停止せよ!飛行計画書が出ていなーい!」

銭形のパトロールロケット接近。

ルパン「ようお、父っつあん、お役目ご苦労ちゃん」
銭形「貴様!?」
ルパン「いい処へ来てくれたぜ」

55 マルコ邸・船着場
トマ、マダム・マルコと不二子をモーターボートに乗せ意気揚々と来る。
その両側にドーンと置かれてある黄金の駱駝の守護神。
ギョッ!となるトマ・ポーロ。
銭形、颯爽と現われる。

銭形「よーし!お前たちに申し渡す!ベネツィアを取るか?手錠を取るか二つに一つ、返答せい?」
カテリーナ「勿論、ベネツィアを取りましてよ。ねえ、不二子さん」
不二子「ええ、勿論」
銭形「宜しい!トマ・ポーロ!貴様は?」
トマ「は…姉さん、どうして此所に財宝が!?」
カテリーナ「あら、あなた、まだ分らないの?お利巧だわ」
銭形「どうするかッ?」
トマ「…ベネツィアを取らせていただきます」
銭形「結構ッ!」

56 サンマルコの広場のカフェ

水が屋根からしたたり落ちている。
ルパン、マダム・マルコ、不二子がワインを飲んでいる。

ルパン「賭け?」
マダム「ええ、弟が財宝を狙っていることを知りましたの、不二子さんに相談したら、ルパンならこの計画をひっくり返せるって」
不二子「私はルパンに賭けたの」
マダム「私は、うちのお利巧さんに賭けたってわけ」
ルパン「財宝を盗む気はなかったのかい?」
マダム「ございませんわ、ベネツィアを愛していますもの、ごらんなさいな、財宝のお蔭でベネツィアは甦ったわ」
不二子「やはり、ベネツィアはこうでなきゃ」

運河を行くゴンドラ。

マダム「はい、不二子さん」

マダム、不二子の手に石ころのようなダイヤモンドを乗せる。
眼をむくルパン。
マダム、ニコリと去る。

ルパン「時に不二子ちゃん」
不二子「なぁに?」
ルパン「あの、ホラ、ダブルベットの件はどうなってンだろうか?」
不二子「これからゆっくり楽しみましょう」

ポーとなるルパン。
楽士が近づきロマンチックな音楽を奏でる。

不二子「さ、ルパン、こっちにいらしてえん?」
ルパン「にはは、ベネツィア最高!」

と、近寄る。
不二子、隣の椅子にワイン・グラスを置く。
ルパン、ワイン・グラスに坐ってしまう。
ガシャリ!

ルパン「ギャーーーーッ!!」

悲鳴を上げるルパンの顔。


END


注釈
終盤に登場する人物「カテリーナ」は、話の筋からして「マダム・マルコ」に置き換えて読む事が妥当ではないかと思います。
本文は、明らかな誤植以外はそのままテキスト化しております。タイプミスではありませんので、ご理解下さい。

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