第拾六弾
幻の劇場版ルパン三世 未使用台本
「三代目襲名」・全文掲載!

1ページ2ページ / 3ページ


「ルパンV世 三代目襲名」脚本/北原 一


 その途端、何かきらめいたかと思うと次元の拳銃は真っ二つになり、
 五ェ門が刀を鞘に収めた「カチッ」という音の余韻だけが残る。

 次元、呆気にとられる。

カポネ 「こんなことだろうと思ってはるばる日本から来ていただいたのさ、
     ヤマト殺しはヤマトにまかせろってね」

 静かに立っている五ェ門、

 次元、素早く、続け様に五ェ門に向って手裏剣を投げつける。

 五ェ門はすべてをかわすどころか逆に刀で打ち返し、
 次元は手裏剣によって服ごと壁に縫いつけられてしまう。

カポネ 「五ェ門先生、手始めにこいつから殺っていただきましょうか」

五ェ門 「よし!」

 五ェ門、構える。

 次元も何やら最後の手を使う算段をする。

 と、その時、さき程、カポネが開いた床が閉じ、
 見るとどこからともなく現れたルパンが腕組みして立っているではないか。

 ルパン、五ェ門に向って、

ルパン 「わざわざ遠方より御足労いただきましたが、お出迎えもいたしませずに失礼しました。
     手前ルパンと発します。生まれは東京 - だと思っていたら、どうやらパリらしいんだけど
     でも育ちは東京です」

 などと、仁義を切る。

五ェ門 「いやいや、堅苦しいアイサツなどぬきにして、イザ勝負」

 と言った瞬間、刀が閃く、

 ルパン、刀を蹴り上げるが、五ェ門は刀を落とさず、ルパン、その反動で遠くへ飛び、身を立て直す。
 そして、しばらく立ち回りを続ける。

 ルパン持っていたナイフは投げ尽してしまい、ピストルはまっ二つにやられ、
 武器は何もなくなってしまって絶体絶命、

五ェ門 「死んでもらいます」

 と、必殺の剣

 ルパンやられた、と思った瞬間、ルパンは刀を手で受けとめる。

ルパン 「見たか、柳生新陰流、真剣白刃取り」

 五ェ門、呆気にとられ、力が抜けてゆくので、
 ルパン、そのまま刀を捩じ伏せ、五ェ門の手から床に叩き落とす。

 五ェ門、ガックリくる。

五ェ門 「見事だ!ルパン」

 そして今度はカポネに向って怒鳴る。

五ェ門 「貸元、今日はやめだ。酒だ。ヤケ酒だ」

カポネ 「酒ってえと、やっぱりヘネシーかナポレオンで………」

五ェ門 「バカ者!毛唐の酒が飲めるか。酒といったら酒、灘の生一本だ!」


○ 別の部屋

 ルパンと次元がいる。

次元 「ふう、危ない所だった。それにしてもあの五ェ門って奴、腕が立つ奴だ。
     アンタ、見事な腕だ。オレだったら殺られてたぜ」

ルパン 「いや、この間、テレビで覚えたばかりでね」

 そう言うルパンの手からは血がポタポタしたたっている。

次元 「おい、手」

ルパン 「いや、たいしたことないよ」

 と手を振ると、両手とも手首から先がポロッと落ちて床に転がる。

ルパン 「ちきしょう、やられた。おい拾ってくっつけてくれ」

 次元、拾ってくっつける。

次元 「大丈夫か」

ルパン 「ナーニ、しばらくすりゃあくっつくさ」

 次元、手を放して、ルパン仕上りを見ると、

ルパン 「バカ、左右間違えたな」

 ルパンの手は外側へ向いてしまっている。


○ ルパンの部屋

 峰不二子と悪戦苦闘しているルパン、さまざまな体位を取って見るがどうもいけないらしい。

不二子 「どうしたのよ。ルパン?」


○ ルパンのイメージ(フラッシュ・カット)

 戦時下の市街、カテリーナ、幼いルパンを連れて逃げ惑う。

 カテリーナは全く峰不二子とそっくりである。


○ ルパンの部屋

 再び悪戦苦闘するが、どうも全然ダメなようである。

 しまいにフテくされて、ベッドの上であぐらをかき、頬杖をついて、カメラに向って、

ルパン 「ちきしょう、矮小なフロティズムのパターンだとは思うけど、できなくなっちまったなんて。
      全くルパンV世様だというのに情けない話しさ」


○ パリの市街

 シャンゼリゼ通りを一人深く考え込みながら歩くルパン。

ルパン 「ちきしょう、ルパンT世が盗みきれなかったものって一体何なんだ。
      その謎はいくら考えたって解けないし、インポになっちまうし、ルパンV世も最低だな。
      そろそろ廃業しようかな」

 一人、全く外の事には気を留めず歩き続けるルパン。

 信号が赤の所を渡ろうとするので、
 車が急停車するがそれをもうるさいと言った風にけっとばして歩き続ける。

 とある街角で一人の日本人と正面衝突する。

 ルパンはそのまま気にも止めずに歩き続けようとするが、その日本人は銭形警部である。

銭形 「ん?」

 と振り返り、少し考え込むが、思い当たったようにして走ってルパンを追いかける。

銭形 「ルパン!」

 ルパン、銭形に気づいて、逃げる。


○ クロードの部屋

 クロード、大きなテレビ画面の前に腰を下ろしている。 となりに、ナナ。
 そして観客に向ってそのテレビ紹介を始める。

クロード 「このテレビはね、ぼくの親友エジソンV世がこの間、
      コンピューターがこわれちゃったお詫びに作ってくれたの。でも、普通のテレビじゃないのよ。
      名づけてドリーム・スチール・マシン。夢を盗む器械なんですって。
      特殊マイクロ脳波受信器を枕の中に仕込んじゃって、
      そいつの見ている夢がちゃんとこのテレビジョンに写し出されるってわけ。
      そう、ヤマト・ルパンの枕の中に仕込んどいちゃったの。
      これであいつが何考えてるか見抜けるでしょ。
      夢を先取りして裏をかいてやろうなんて、サースがでしょ。
      ふ、ふ、ふ、あいつもそろそろ寝た頃ね」

 クロード、時計を見る。

クロード 「あっ、そうそう、忘れてた。
      この人ぼくのフィアンセのナナ、どうですいい子でしょ。
      ぼくが正式にルパン帝国を継いだら式を挙げるんだもんね」

 と、となりに座っているナナと、二人で顔を見合せる。

 クロード、スイッチを入れる。

クロード 「さあて」

 テレビの画面はもやもやした抽象画である。

クロード 「まだ夢を見てないのかしら」

 画面は次第に、もつれた糸がほどけるようにしてだんだん画像らしきものが写し出される。

ナナ 「やっと夢を見始めたらしいわ」

クロード 「うん」

 画面ははっきりしている。

 どうやらどこかの荒れはてた市街である。

ナナ 「どこかしら?」

クロード 「戦時下のパリか」

ナナ 「とすると、やつの小さいころの思い出ってわけね」

 逃げ惑う母子

クロード 「くそ、奴は戦時下のパリなんて憶えてるはずないのに。
      すると奴はやっぱりオレの異母兄弟なのかなァ」

 画面がしばらく続くと、どうもパリの街ではないらしいことが判明する。

クロード 「ん?パリじゃないぞ、こりゃ」

ナナ 「どこかで見た覚えがあるわ………うーんと、映画か何かで見たはずなんだけど。
    わかった!広島よ、原爆の落ちた町広島!」

 焼けただれた人々、荒廃した市街、すると、そこへナチス軍が出てくる。

クロード 「ナチスこわい!」

 画面は再びモヤモヤとなると、今度はノルマンジー上陸作戦になったかと思うと画面モヤモヤで、
 今度は映画「さらば友よ」のチャールズ・ブロンソンとアラン・ドロンの画面になったり

クロード 「ちぇっ、一体、奴はどういうつもりなんだろ」

 今度は〇〇七の一場面になったり、イエローサブマリンが出てきたり、
 そのうち様々な映画のシーンが入り乱れる。

クロード 「くそ、何が何だか分かんなくなっちゃった」

クロード 「でも夢がいろいろと多い人ね、見ていて結構楽しいじゃない?」

 そこへカポネ、発明王のエジソンV世が入ってくる。

エジソン 「クロード、どうだい、役に立つかい。」

クロード 「ああ、エジソン。だめよ。さっぱり分んない。キミの思い着きはよかったんだけどねえ」

エジソン 「それはごく正常な頭脳の持ち主じゃないと測定できないからな。
       それより今夜はもっと決定的な発明を持って来たのさ。」

クレムリン 「おい、特殊コンピューターを運び込め。」

エジソン 「これはね、今度のために設計したのさ。この間はルパン一世に関する資料だけを
      プログラムソースとした訳だろう。ところが犯罪っていうのは出逢いなんだ。
      素人のボクが玄人のキミを前にしてこんなセリフをはいては申し訳ないんだけどさ。
      だからルパンT世に関するプログラムソースに加えて、
      もう一つこれから近いうちに起こるあらゆる出来事のプログラムソースを作ることが必要なんだ。
      つまり一次函数ではなくて二次函数を解かなければならないんだ。
      するとルパンT世のなし得なかった犯罪が未来進行形に於いて現実的に映像化し得る
      という訳なんだ。」

 クロード、エジソンの説明を聞いているうちに感激してしまう。

クロード 「おお、そうよ、そうよ、キミの言う通り!我々はみんなそこまで考え着かなかった。
      キミは何て頭がいいんだろ。やっぱり発明王ねえ。エジソン」

 エジソン頭をかいて、

エジソン 「いや、それ程でもないよ」

カポネ 「さあ、さっそく、その二次函数とやらを行使してみようではないか。
     ルパン一世に関する資料はここにある」

 と言って、エジソンに資料のつまったスーツケースを渡す。

 エジソンは自分で持って来たスーツケースを開けて、

エジソン 「さて、こっちは今日ボクが、あらゆるマスコミやジャーナリズム、
      警察や気象庁や天文台をかけずり回って集めてきた資料だ。
      ルパンT世の資料はこっちから、これからの出来事の資料はこっちから入れてと。」

 エジソン、コンピューターを操作し始める。

 コンピューターは快調に始動し、やがて答えをはじき出す。

 クロードは待ち構えていて出て来た答えの紙に飛びつく。

クレムリン 「おい、何て書いてあんだ、見せろ」

 カポネとクロード、二人して紙を読み始める。

クロード 「あるせーぬ。るばんハるーぶるビジュツカンヲマルゴトヌスモウトシタガジツゲンデキナカッタ
      チカクるーぶるビジュツカンノイテンコウジガアリゼッコウノキカイ、
      おお!喜べ、ついに謎が説けたあ!」

カポネ 「これで、ルパン帝国もわれらのものだ」

 みんな大喜びをする。

カポネ 「これでもう、九割九分までルパン帝国を継いだも同然だ。
     さあ、酒だ、酒だ、みんな呼んで来い!」

ナナ 「よかったわネ、クロード!」


○ あるカフェ

 一人ポツンとコーヒーをすする銭形警部、

銭形の声 「いつものように、からくも取り逃がしてしまった。
       だが、昨日の街角のルパンのように真剣に考え込んでいる彼をかつて見たことがあっただろうか。
       一体、奴は何をたくらんでいるのか。
       パリへ来てから一週間というもの足を棒のようにしてフランス警察の助けは借りずに、
       一人で歩き回ってみたが、手掛りといえば昨日ルパンに会ったことぐらいであった。
       あの綿密で用意周到なルパンのことだ。
       たとえパリ警察の協力を得たとしても結果は同じであっただろう。
       そして、今日考えついた一つの名案。
       それはごく身近にあるが故に目につくのが難かしい、そう、かのエドガー・アラン・ポーの
       「盗まれた手紙」の隠し場所のような一つの名案なのだ。つまりこういうことだ。
       ルパンの動きは我々にはさっぱり分らぬが、我々の動きはルパンにはつつ抜けである、
       という構造、それを逆に利用できやしないかということなのである。
       いわば、つけさせといてやる、探らせることによって探る。ということなのである。
       ルパンと対抗するにはそれ以外ない。
       ほら、たとえば、カフェの中で私と対偶になる位置に腰をおろし、
       カフィをすすりながら何気なく私の方を見遺る男、彼は私をつけているルパンの一味に違いないのだ。
       山高帽を被り、アゴにヒゲをたくわえ、常に黒檀のステッキを持っている男。
       奴はルパンが宿敵である私に向けた腕利きの部下の一人に違いない。」

 銭形、立ち上りレジに向う。

銭形 「男は出て行こうとする私を見ながら大きなアクビとノビをしている。いかにもカフェがあきたような仕種だ。
     その仕種は、彼も私に続いて立ち上り、私を尾けて出ていく不自然さとぎこちなさをカバーするための
     ものなのだが、この銭形を向うに回しては不毛な努力というほかはないのだ。」

 銭形、カフェから出ると、
 山高帽の男、アクビとノビをし終わると、さも退屈そうな顔でレジを済ませ、外へ出る。


○ 街

 歩いていく銭形

 尾ける男

 ある街角まで来ると銭形急に早足になり、裏道をクニャクニャ曲って歩く。

 男、必死になって後を追うが、銭形の曲がった後を追いながら、ある角まで来てみると、
 銭形の姿はどこにも見当らず、そこには薄汚ない乞食が一人いるだけである。

男 「いま、ここを男が通らなかったか」

こじき 「あっち、走って」

 と向うの方を指さす。

 男、その方角へ急いで行く。

 こじきはニヤッと笑いながら扮装をとると、何と銭形警部ではないか。

銭形 「オレだって、変装術くらい心得てるさ、恐れ入ったか、ワッハハ」

 と、今度は逆に、男を尾け始める。


○ 街

 どうもおかしい、と首をひねりながら歩いて行く男

 それを尾行する銭形。


○ パリ警察本部

 男は警察本部の中にズカズカと入って行く。

 入口に立っている警官が、男に向っておじぎをする。

銭形 「ん?分った。そうか、やつはパリ警察の内部にまでスパイを送り込んでいたのか。
    それも相当いいポストに、よし、かくなる上は総監に申し上げた方がいいだろう。」


○ 総監室

 総監とさっきの男、すなわちガニマール警部が話しをしている。

 ノックする音がし、銭形が入って来る。

銭形 「総監、日本から来た銭形ですが、是非ともお話しした………」

 銭形とガニマール、目が合う

二人(同時に) 「アッ!」

ガニマール 「こいつだ、ひっとらえろ。」

 警官が銭形にとびかかる。

銭形 「何するんだ」

 銭形、柔道と空手でがんばるが、何せ、相手は多い。
 しまいにはふん掴まってしまう。

銭形 「無念、ルパンにやられたか。それにしても己の手を使わずしてやるとは何と巧妙な、
    機智にたけたやり方であろう。全く相手として不足はない。」


○ 留置所

 銭形、フテくされた顔をして監房の中にいる。

 警官が来て鍵を開ける。

警官 「事情が判明しました。こちらにいらして下さい。」

 銭形、フテくされたまま連れて行く。

銭形 「バカめ、時間を労費してしまった。」

 ブツブツ、ぼやく。


○ 総監室

 総監とガニマール警部、平あやまりにあやまる。

総監 「日本の警察に問い合わせて事情が判明した。
    いや、ルパンシンジケートが日本から殺し屋を呼んだという情報が入ったものでね。
    あなたと間違えてしまったのです。どうも申し訳ない。」

ガニマール 「何故、着いてすぐこちらへ来られなかったんですか。お互いに協力しなくっちゃいけない。

銭形 「何を見えすいた事いいやがって、おい白状しろ、お前はルパンのスパイだろ。」

 とガニマールに掴みかかる。

総監 「銭形くん、早合点してもらっちゃ困る。彼はかのガニマール警部だよ。」

 と、銭形をとめる。

ガニマール 「はっはは、私をルパンのスパイだって。早トチリにもほどがある。
        私は父の遺志をついでかれこれ二〇年、ルパン帝国と戦い続けてきたんだから。」

 銭形、またドジッたという顔をする。


○ ナナの寝室

 ナナ、ネグリジェで化粧台の前で髪をとかしている。

 化粧台の上にブランデーグラス。

ナナ 「今日は少し酔っぱらっちゃったわ、ああいい気持!」

 とナナ、ベッドへ。その時、

 ベッドカバーが破けて、二本の腕がとび出る。ナナの腰を強く掴む。
 わが、ヤマト・ルパンである。

ルパン 「それじゃあ、もっといい気持ちにしてあげようか。」

ナナ 「キャーッ、誰?」

ルパン 「は、は、は」

 ルパン、上半身、登場、

ナナ 「ルパン」

 ルパン、素早く愛撫、

ナナ 「やめて、私、クロードの………」

 と言いながらも、ナナ、いい気持ちになっていく。

ルパン 「ふ、ふ、ふ、女はかせるには抱けばいいのさ」

 ルパンはさまざまな体位をとっていく。

ルパン 「ほら見ろ、ルパンV世様、おとろえずだ。
     インポになっちまったなんてしょげてたのはどこのどいつだ。」

ナナ 「もっと、つよく、もっと、もっと、」

 とあえぐ。

ルパン 「いい子だ。クロードが何をやらかそうとしているのか話してくれたら、
     もっといい子なんだけどな」

 と、言いながら、激しさを増す。

ナナ 「ルーブル………」

ルパン 「ルーブルって、ルーブル美術館か」

 ナナ、うなずく、

ナナ 「まるごと、盗む………おじいさまは………まるごと盗めなかった………のですって。」

 ルパン、それを聞き終えると、大声で笑い出す。

ルパン 「あっははは、あっははは、ルーブル美術館をまるごと盗むんだって、あっははは、
     アルセーヌはそれをやらなかったから、それをやれば、じいさんの遺言どおりだってえわけか。
     あっははは、バカめ、ボンクラの考えつきそうな事だよ。
     あっははは、盗みきれなかったというのは、
     実際、盗んだか、盗まなかったかの問題ではなく、可能性の問題なのに。
     あっははは、アルセーヌにしてみりゃ、ルーブル美術館を丸ごとなんて楽々盗めたんだぜ、
     あっははは、あっははは、あっは………」

 ルパン、笑っているうちにハッと何事かに思い当り、笑いを止む。

ルパン 「アルセーヌが盗みきれなかったもの。
     事実問題としてではなく、可能性の問題として盗みきれなかったもの。
     それはオノレジシンとオノレが築き上げた帝国そのものなのだ。
     ついに謎は解けた。するとオレは。あっはははは、あっはははは。」

 と言うなり、再びナナとコトを始める。

ナナ 「ルパン、だめ、これ以上やったら、わたし、死んじゃう」


○ ルパンの部屋

 不二子とコトをやっているルパン、非常に好調である。

ルパン 「ルパンを盗み、女を盗み、母を盗み、帝国を盗む、はっはははは、あっはははは」

不二子 「今夜のアナタはニクらしいわ。殺してやりたい。
     後で絶対殺してやるから、気を付けた方がいいわよ」

 と、快調なペースで続ける。

 そこへ「ルパンV世の唄」がかぶさる。


○ 野原

 人っ子一人いない荒れ果てた野原と 化した廃墟と言った方がピッタリするような場所である。

 そこで何やら待つように佇む五ェ門。

 しばらくすると風の吹き荒ぶなかからルパンが登場。

 白木の鞘に納めた日本刀を手にしている。

ルパン 「いいか、いくぞ」

 と、日本刀を抜く構え。

五ェ門 「ちがう、ちがうんだ」

 と、手を振る。

ルパン 「何だ、果し合いじゃないのか」

五ェ門 「カポネの手前はそうなっているけどな。
     たんまり金をもらっちゃった手前、一応働いている様子を見せなければならないんだ。
     苦しい所だよ。それでな一つあんたに頼みがあるんだ」

ルパン 「何だ?」

五ェ門 「オレもな、ここでガッポリもうけたら日本へ帰って、五ェ門商会を再興しようと思ってるんだ。
     その時は是非とも協力してもらいたいんだ。なんなら………」

ルパン 「いやだね。過度期にあってはそのような固定した組織を作ることは誤謬だ」

 と、言って立ち去る。

五ェ門 「何、キザな事ぬかしやがって。
     でもいつかは必ず口説き落してみせるぜ、オレはおぬしにすっかり惚れてしまったんだ」


○ ルーブル美術館新館

 落成し、あとは搬入を待つばかり。


○ ルーブル美術館旧館

 新館に移転するために運び出す人夫たちを装って、次々と名画を盗み出すクロードの部下たち。

 「盗め盗めソング」がかぶる。


  盗め、盗め、盗んじまえ

  セザンヌだって、ゴッホだって、盗んじまえ。

  ルノワールだって、ゴーギャンだって盗んじまえ、

  マネだって、モネだって、ダ・ヴィンチだって、ブリューゲルだって、何もかも盗んじまうのさ。


○ ルーブル美術館新館

 次々と搬入されるニセもの。

 「盗め盗めソング」の続きがかぶさる。


  そしてホンモノをニセモノにとっかえちゃうのさ、

  だからホンモノがニセモノになり、ニセモノがホンモノになり、

  だから、だから、ホンモノとニセモノが目の前でくるくる回り出したよ。


○ ルパン帝国地下ギャラリー

 手を取り合って喜ぶクロードとカポネ。

カポネ 「うししし………」

クロード 「おじいさん、とうとうやりましたよ」

 「盗め盗めソング」続きがかぶさる。


  ニセモノもホンモノもありゃしないのさ、

  ホンモノもニセモノも心の問題なのさ。

  そうさ、おいらは人の心を盗んだのさ。

  ホンモノもニセモノもゴチャゴチャにしてしまうのさ。

  そうさ、おいらは人の心を盗んだのさ、

  そうさ、おいらは世界中の秘密を盗んだのさ。

  盗め、盗め、盗んじまえ。

  セザンヌだって、ゴッホだって、盗んじまえ。

  ルノワールだって、ゴーギャンだって盗んじまえ、

  マネだって、モネだって、ダ・ヴィンチだって、ブリューゲルだって、何もかも盗んじまうのさ。


○ ルーブル美術館 新館

 落成記念式が開かれている。

 エライ方たちがズラッと勢揃いして、口々に新館および、名画をほめたたえている。

 例えばこんな具合に、

 「久々にセザンヌを見る機会にめぐまれたがやっぱりセザンヌはすばらしい」

 「ルーベンスの光線は永遠の光りですな、ワッハハッ」


○ クロードの部屋

 落成式の模様が隠しカメラを通してクロードの部屋のテレビに写し出されている。

 それを見ながら、再び、カポネとクロード大喜び。


○ ルパンシンジケート・駐車場

 ホンモノとニセモノを運搬した二台のトラックが車庫に入る。

 なかから運転手と助手の計四人が出てくる。

運転手A 「うまくいったな」

運転手B 「全くだ。人夫が全部ルパンシンジケートの変装などとは、一体誰が………」

 四人、柱の蔭を通った途端、何ものかによって、気絶させられ、連れ去られる。

 ルパン、次元、不二子、五ェ門の四人である。


○ パリ警察本部

 居眠りしている総監。

 突如として電話のベルがけたたましく鳴る。

 総監、電話を受けて驚き、大きな声を出す。

総監 「ナニ! 文部大臣あてにルパンから手紙?」


○ パリの街

 夜である。

 ネオンサイン、糸を引くように流れる車のヘッドライトが非常に美しい。

銭形の声 「ルパンの手紙は、ルーブル美術館新館のコレクションはすべてインチキなり、ルパン。
       という内容であった。これは一体どういうことなのであろうか。
       もうすでに盗んだということなのか。
       それにしても予告衝動の強いあの男が予告なしに犯行を企てるであろうか。
       それともシャレた犯行の予告なのであろうか。
       いずれにせよ明日の鑑定によってはっきりする事柄である。
       とにかく、今度という今度は絶対逃がしはしないぞ。ルパン!」


○ クロードの部屋

 クロードとカポネ、新聞で、ルパンの手紙の記事を読んでいる。

クロード 「ヤマトの奴、もうやけっ八ですね。こんな手紙出したりして」

カポネ 「奴もヤキが回ったな。くやし紛れに警察の応援を頼むとは」

クロード 「そんな事してもムダなのに。もう三代目はボクに決まってしまったのに。
      あとは襲名パーティを残すだけ」

 天井裏で二人の会話を聞くルパン。

ルパン 「バカめ!人の心を盗んだという歌を歌うくらいなら、
      手前(テメエ)の心が盗まれねぇように注意しておくんだな」


○ ルーブル美術館

 鑑定人の諸先生が鑑定をしている。

 鑑定をし終え、諸先生が記者会見をする。

鑑定人 「みなさん、安心して下さい。すべてホンモノでした」


○ クロードの部屋

 テレビの画面を見ながら、ビックリするカポネとクロード。

カポネ 「えっ、一体、何て事なんだ。こんなバカな」

クロード 「トラックの運転手はホンモノとニセモノ、間違えずに運んだんでしょうね。オジサマ」

 クロードおたおたしている。

 カポネ、あせる。

カポネ 「お、おい、運転した奴を、よ、よんで来い!」

 近くにいた部下に言いつける。

 部下出て行くが、しばらくして血相を変えて戻ってくる。

部下 「そ、それが行方不明で………」

カポネ 「ナ、ナニ!じゃあ、地下ギャラリーのは!」

 カポネ、部屋を飛び出す。

 クロードならびに幹部諸公も続く。


○ 地下ギャラリー

 一同がギャラリーに飛び込むと、世にも恐ろしい奇怪な音がして、
 見ると死んだはずのルパン一世が燃えさかる火に包まれて、宙に浮いているではないか。

 一同、腰を抜かさんばかりである。

アルセーヌ 「何たるザマだ。もういい。ルパン帝国の次代首領は二時間後、このわしが指名する。
        ついでに言っておくが、ルパン帝国では失敗は許さん。失敗した者は掟に従って死ね!」

 と、言い終わると、消え去る。


○ ルパンの部屋

 一世のマスクを脱ぎ捨てるルパン。

次元 「それにしても効果満点だったぜ。ルパン」

ルパン 「体に塗った超硬質液体と、超硬質完全透明板ガラスのおかげだよ」


○ パリ警察本部

 デスクに坐っている銭形、

警官 「警部、警部あてに大きな荷物が届きました」

 と大きな荷物を持ってくる。

 開けてみると、中には麻酔をかけられたホンモノの鑑定人たちが入っている。

銭形 「ルパン!」


○ クロードの部屋

 クロードとカポネ、小刀を前にして正座している。

 五ェ門が脇に日本刀を抜いて構えている。

五ェ門 「早くしろよ。せっかく介添してやろうって言うのに。往生際の悪い奴だな。
     死に際ぐらいカッコよく行きたいっていうからすべて用意してやったんだぜ」

 クロード、恥ずかしそうに五ェ門に耳うちする。

五ェ門 「ナニ、辞世の句が読みたい?」

 クロード、うなづく。

五ェ門 「よし最後の御奉公だ、知恵を貸してやろう」

 五ェ門、少し考え込むが、

五ェ門 「こういうのはどうだい、ちょっと字余りだが、
     『ヤマトルパン、お前に負けたが、これだけは、我先がけて、行くは腹切り』」

 クロード、ムズかしそうな顔をする。

 五ェ門、再び考えて、

五ェ門 「じゃあ、こういうのはどうだ。
     『明日の世に、我生まれなば、いつの日か、世界を盗む、泥棒にならん』
     ………どうだ、いいだろ」

 クロード、ムズかしい顔をしてうなずく。

五ェ門 「さあ、早くやるんだ」

 クロード、刀を抜いて腹に当てるが、

クロード 「イタイ!おじ様、先にして!」

カポネ 「バカモノ、潔くせい!」

五ェ門 「どっちでもいいから早くやれよ!」

 五ェ門、おこり出す。


○ アルセーヌの間

 ヤマトルパンを囲んで一同が会っている。

ヤマト 「ふふふ、アルセーヌじいさん、オレは盗んだぜ、遺言どおり、
     お前さんの絶対盗みえなかったもの、ルパンV世という自分自身とルパン帝国の全部」

 ルパン、何やら気になる音がして、スミの方へ行き、そこに仕掛けられた時計を持ってくる。

ヤマト 「これは何だっけ、次元」

次元 「そりゃ、あんたがこの間仕掛けた時限爆弾じゃないか、
    どうも期限付きじゃないとなかなかオチがつかないといけないと言ってね」

ヤマト 「あっ、そうか。もう時間だ」

 と言った瞬間、時限爆弾は爆発。

 その大爆発のなかでルパンの声。

ヤマト 「成る程、オチがついた」

 すべて崩れてしまったルパン帝国。

 次元、不二子、五ェ門、ベルナール老、など、
 みんな崩れ落ちた建物のなかから這いよってくるが、ルパンだけいない。

次元 「ルパン!」

不二子 「そんなバカな、わたしの千人目がいなくなっちゃうなんて」

五ェ門 「五ェ門商会を作ったらお前にゆずってもいいんだぜ、ルパン!」

 そこへ、銭形警部がかけつけて来る。

銭形 「遅かったか」


○ 大平原

 爆弾で吹き飛ばされ、全身傷だらけのルパンが横たわっている。

 ゆっくり起き上がり、イタむ体をひきずりながら歩き出す。

 そこに「ルパンV世の唄」がかぶさり、

 エンドマーク。




資料館へ戻る

トップ アイコン
トップへ戻る

inserted by FC2 system